《講演録》「カレーハウスCoCo壱番屋」創業者が語る!目標を追い続ければ、奇跡は起きる!
2025年2月19日(水)開催
【起業ファーストステップ2024】基調講演
「カレーハウスCoCo壱番屋」創業者が語る!目標を追い続ければ、奇跡は起きる!
講師 宗次 德二氏
(カレーハウスCoCo壱番屋 創業者)
国内外に多数の店舗を展開し、いまや一大カレーショップチェーンとなったカレーハウスCoCo壱番屋(通称「ココイチ」)。その原点は、創業者の宗次氏が夫婦で営んでいた小さな喫茶店にある。同氏はそこで接客という「夢中になれること」を見つけ、より多くのお客さまに喜んでもらえるサービスと店舗づくりをめざして奮闘する。その結果、「ココイチ」は創業以来、増収増益を続け、上場を果たした。本講演では、宗次氏が起業家・経営者としての経験談を交えながら、目標を達成するために必要な考え方を語った。
目次
■ 絶対に値引きしない経営術
「ココイチ」を29歳で立ち上げ、53歳で引退するまでに800号店を達成しました。1軒目は40平米ほどの広さで家賃は7万円。愛知県清州市内にあった三軒長屋の一つで、夫婦でカレー屋を始めました。
当初は1日に2万数千円しか売上げがありませんでしたが、「日商6万円になったら2号店を出そう」と夫婦で目標を立て、その1年後に2、3、4号店を出しました。そして、その次は「月商150万円、年商1,800万円。10店舗で1億8,000万円」という目標を立て、毎期の売上げを徐々に上げていきました。
一生懸命やればお客さまは確実に増えていきます。いまの時代、私のような考えを持つ人は少ないかもしれません。それでも、自分が新たに飲食事業を始めるとしても、絶対に値引きはしません。適正な利益をいただくことが大切であり、売上げが伸びれば粗利利益も当然伸び続けるので、それが理想の商売のあり方だと考えています。
ただし、何よりも大切なのはお客さまであり、接客です。感謝の気持ちを伝えること、お客さまの期待に応えること、それが何より大事です。

カレーハウスCoCo壱番屋1号店
■ 早起きは百利あって一害なし
私は毎朝、事務所に入室するときにタイムカードを打刻します。昨年は一日も休まず、午前4時までに99%打刻しました。早起きには百利あって一害もありません。何か夢を追いかけたり、目標を達成しようと思ったらまず、早起きをしてください。
「宗次さん、趣味はなんですか?」とよく聞かれます。超早起き、街の掃除、街に花を植えること、クラシック音楽を聞くこと、あとは社長の仕事、そしてもう一つは寄付です。『寄付の達人』という本を上梓しましたが、その1ページ目には「助け合いは人としての本能」と書かせていただきました。
溺れかかっている人を見て「大変だね。頑張って」と通りすぎる人はいません。うずくまって、何も食べていないホームレスの人に、コンビニでお茶とおにぎりを買い、千円札を添えて渡すーーというようなことを、何度も行ってきました。炊き出し会場には、雪が降っていても、暑さが厳しくても必ず行きます。
皆さんにとっては、寄付は「次の問題」かもしれません。けれども経営がうまくいったのならば、次は社会のために動くべきだと思います。まずは黒字経営にして、税金をきちんと納める。それが大切だと、私は考えています。
■ 適正な利益をいただき、喜んでいただく
思えば創業期は大変でした。私も人の面ではずっと苦労しましたし、日々の失敗は山ほどしてきました。それでも「経営における失敗」はゼロだと自負しています。存続の危機を感じたことは一度もありません。いざというときに慌てなくていいように、経営者は常にだれより一生懸命に汗をかく、それが大切です。
私が長年に渡り実践してきたことを「日めくりカレンダー」にまとめました。そのシリーズのひとつで、「経営の達人」と題したカレンダーの1ページ目は「お客さま 笑顔で迎え 心で拍手」と記しました。これは、25歳で場末の小さな喫茶店を経営していたときに実践していた語録です。
私はモーニングサービスが盛んな名古屋で喫茶店を営みながらも、いわゆるモーニングサービスは一切行いませんでした。「安くしますから来てください」「物をサービスするから来てください」という姿勢でお客さまにたくさん来ていただいても、私はうれしいとは思えなかったのです。適正な利益をいただいてお客さまに喜んでいただく。そのためにも、「感謝の笑顔で溢れた明るい店にしよう」と考えていました。その姿勢は今でも変わりません。

75年に創業した珈琲専門店「浮野亭」でマスターをしていた頃の宗次氏。
■ 明日の成功の種は現場に落ちている
私は幸いにも、前身の喫茶店から右肩上がりの成長を続け、ここまで来ることができました。右肩上がりであることの価値は、人件費や設備投資を始め、経営に必要な経費を惜しみなく使えることです。また、いつまでも「お山の大将」でいられます。社員の待遇を良くしていけるので、会社の規模が大きくなり、社員が増えても社内には派閥もなく、皆が会社の成長のためまい進していました。
コンサルタントは一人もいません。私は全て「現場」が教えてくれると思っています。営業の現場であっても、工場であっても、あるいは店舗であっても、お客さまや社員、取引先など、明日の成功の種は現場にたくさん落ちています。だから私は現場に入って、1時間でも多く現場にいるのです。
「経営や仕事だけが人生ではない。そんな寂しい人生でいいんですか」と言う人もたくさんいましたが、私は経営者です。経営がうまくいって利益を上げることが仕事です。それだけでなく、寄付もできるし、税金も毎年多く納められる。そうすることで、みんなが幸せになる。こんなにいいことはないと私は真剣に思っています。

宗次氏は引退後、ホールを建設しクラシック普及をめざしている。
■ 物事にはプラスとマイナスがある
社会に出るまでの私は世間のことを何も知らず、親は私のことをいつもほったらかしでした。児童養護施設から拾ってくれた養父はギャンブルにのめり込んでいて、私の日課はタバコの吸い殻を拾うこと。リンゴ箱が唯一の家具で、ろうそくの明かりで生活をしていました。その後、養母とトタン屋根の六畳一間に暮らすことになり、電気が灯ったのは高校に入る直前でした。
高校には行きたくなかったけれど、母親と相談して行くことにしたんです。入学書類のために戸籍謄本の写しを取り寄せたら、三つの発見がありました。名前と誕生日が違っていて、親が違うということを15歳で初めて知りました。「事実は小説よりも奇なり」の人生ですが、人間万事塞翁が馬、私の場合はこの境遇に鍛えられたからこその経営者人生を歩むことが出来ました。
人間ですから、苦労と感じたり不平を言ったりすることもありました。それでも前向きに、まず自分が頑張ることが大事です。周囲には背中で教えるのです。私は並の経営者より2、3時間早く起きます。人の逆を行けば、うまくいくことがいっぱいあります。人付き合いが下手だったら、その分、仕事を謙虚にひた向きに続ける。誰もが営業力をつけたり人脈づくりをしなくてもいい。すべての物事はプラスがあってマイナスがあるのです。
「三方よし」という言葉があります。「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の三つの視点から物事を見て、バランス良く行う経営哲学です。私自身の経験から振り返ると、いい経営を続ければ「三方よし」になるに決まっていると感じます。
■ 経営は行き当たりばったりが一番いい
「日めくりカレンダー」シリーズ「起業の達人」の1ページ目に記した究極のアドバイスは「起業はしない方がいい。ただし、七難八苦を乗り越える覚悟があるなら、明日にでもしなさい。善は急げ」ということです。
次に「起業とは大金をはたいて苦労を買うようなもの」「シンプルにコツコツ積み上げる方が成功につながる」。さまざまな手を考える必要はありません。要は真面目にやること。「お客さまのために」という思いで行動すること。多事多難な今の時代は、現場第一、経営一筋でなければ真の成功は難しいのです。
そして晴れて起業したら、新たな人生の記念として「寄付」を始めましょう。小銭でもいい。日々ポケットの小銭を貯めれば年間2~3万円位にはなります。多くの人の手を借りてこれから経営するんですから、そのお返しをさせてもらうという気持ちは持ってしかるべきです。
大阪産業創造館の知恵を借りながら、日々良い経営をめざして取り組んでいただきたいと思います。
(文/安藤智郎)
宗次 德二(むねつぐ とくじ)氏(カレーハウスCoCo壱番屋 創業者)
1948年石川県生まれ。高校卒業後、八州開発株式会社、大和ハウス工業株式会社を経て、73年に不動産仲介業の岩倉沿線土地開発を創業。翌年、夫婦で喫茶店「バッカス」を始め、同店の経営から「接客業が天職」と悟る。75年に珈琲専門店「浮野亭」で提供する、妻が作るカレーが評判を呼び、カレー専門店の創業を決意。78年にカレーハウスCoCo壱番屋を創業、82年に株式会社壱番屋を設立し代表取締役社長に就任(98年に代表取締役会長へ就任)。常に現場第一主義で考え、同社を創業から20期連続での増収増益、上場へと導き、日本有数のカレーショップチェーンへと発展させる。2002年に役員を退任後、福祉・支援活動を目的としたNPO法人の理事長就任、クラシック音楽の普及を目的とした宗次ホールの設立などを通じ、多くの慈善活動に取り組んでいる。2020、23、24年紺綬褒章受章。
著書に「日本一の変人経営者」(ダイヤモンド社)、「“ココ一番”の真心を」(中部経済新聞社)、「独断 宗次流 商いの基本」(プレジデント社)など多数。
表彰:アントレプレナー大賞部門 中部ニュービジネス協議会会長賞受賞(1994年)、第6回企業家賞受賞(2004年)、経済界大賞 社会貢献賞受賞(2017年)など受賞多数。