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大阪・天満のガラス工芸を企業経営の発想で未来へつなぐ

2025.04.08

「切子」はガラスの表面に模様を刻む伝統技法で、発祥は江戸時代にさかのぼる。「江戸切子」と「薩摩切子」が2大ブランドとして立ちはだかる中、かつてガラス産業が栄えた大阪・天満から全国に名を轟かせているのが天満切子株式会社だ。

オリジナルブランドの「天満切子」は、日本酒を注ぐと底面に刻まれた模様が万華鏡のように側面で踊る。この唯一無二の美しさが目の肥えた富裕層を魅了し、2019年のG20大阪サミットでは贈答品として各国首脳に贈呈された。

現在、代表を務める宇良氏は2015年に大手企業を早期退職して事業を承継。天満切子をブランドとして確立した先代の急逝を受けてのことだった。「商品の認知も広がり、割と軌道に乗っていた時期でした。ただ、すべて卸販売だったので、自分たちで直接消費者に商品や情報を届ける動きも必要だと感じていました」と当時を振り返る。

2年後の2017年には直営ショップ「天満切子Gallery」をオープンし、2020年にはオンラインショップも開設。そして興味深いのが、天満切子でお酒を楽しめるバーとして2023年にオープンした「TEMMA KIRIKO UX」だ。

この構想には先代が残した「鑑賞の美」と「用の美」という考え方が刻まれている。「天満切子は使ってこそ魅力を実感できます。『用の美』という言葉はその特徴をよく表していて、使ったときの美しさを体験する場を作ることは、天満切子の認知を広めるうえで重要でした」。

さまざまな努力が実を結び、天満切子は“衰退する伝統産業”というイメージとは真逆の成長軌道を描く。そこで生まれた新たな課題が、供給体制の整備。現在、生産設備の拡充に向けた計画も進んでいるが、同時に考えなければならないのが職人の育成だ。

「かつては徒弟制度で時間をかけて職人を育てていましたが、今の時代にはきちんとプログラム化された育成制度が必要です。多くの伝統産業で後継者不足が叫ばれていますが、職人を志望する人は一定数います。問題は、技術を習得しながら仕事として続けられる環境がないことです」。

先代が確立した技術にマーケティングと人材育成の仕組みを取り入れ、さらなる成長基盤を築いてきた宇良氏。「家業から企業へ」のお手本ともいえる改革には、他の伝統産業が学ぶべき点も多い。「私はもともと一般企業に勤めていたので、外から客観的に家業を見ていたのがよかったと思います。今は弊社でも若い職人が育っているので、その感性も大切にしながら時代に対応した商品を届けていきたいですね。そして『天満切子』を江戸切子や薩摩切子と肩を並べるブランドに育てていきたいと思います」。

代表取締役 宇良 孝次氏

(取材・文/福希楽喜 写真/福永浩二)

天満切子株式会社

代表取締役

宇良 孝次氏

https://temmakiriko.com

事業内容/切子グラスの商品企画・製造・販売