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「魔法の石」できれいなトイレを世界中に

2025.02.03

自然災害の多い日本において、被災者を悩ませる問題のひとつがトイレだ。仮設の汲み取り式トイレへの抵抗から水分摂取を控えてしまい、脱水症に陥る人も少なくない。被災地でなくとも、山間部や建築現場などトイレに困る場所は多い。このような課題を解消するため、使用後の水を自己処理して再生する循環型トイレも複数開発されているが、その中でも異彩を放つのが株式会社TI plus(ティアイプラス)ホールディングスの『エコノワ』だ。

「もともと建築業を営んでいた」というCEOの加守氏。その経験は「製品の小型化」という大きなメリットにつながっている。トイレで流した汚水は複数の浄化槽を経由して再利用可能な洗浄水となるが、同様の製品は他にもいくつか存在する。それらの従来品が抱えていた大きな課題がサイズだ。循環型トイレは、山間部などでの需要が多く、運搬や設置のハードルを下げるためにも小型化が求められる。その点、エコノワの最小タイプは約1.5m四方に収まり、設置作業も1日で完了する。これまで、観光農園や山間部にある寺社仏閣、キャンプ場などに導入され、ゴルフ場からの要望も増えているという。

もうひとつ、エコノワの強みとなっているのが、加守氏が「魔法の石」と呼ぶ濾材(ろざい)だ。大学との共同研究によって脱臭・浄化作用を高めた素材を開発。独自の技術でブロック状に固めた「ボルカナイト」と呼ばれる濾材が誕生した。これを浄化槽に入れることで、中を通った汚水が洗浄されていく仕組みだ。

汚物を分解する微生物に最適な多孔質構造の濾材。

最後はオゾンで処理し、再生された水はほぼ無臭になるという。このシステムの大きな利点は、ランニングコストが圧倒的に安くなること。エコノワのメンテナンスは年に1回で済み、消費電力も少ないため必要な電力はソーラー発電でまかなうことも可能。当然ながら水道代は必要なく、100%自然循環型トイレの開発も実現している。

2022年に大阪トップランナー育成事業に認定されるなど、早くからその可能性に期待が集まっていたエコノワ。2025年の大阪・関西万博への出展も決まっている。今後は災害現場での活用にも期待が高まっているという。 ただ、加守氏の視線の先にあるのは、さらに深刻な立場に置かれている人々だ。世界には水道設備が整っていない地域も多く、衛生的に管理されたトイレを使えない人は約34億人。世界人口の4割にあたる数だ。将来的にはこれらの地域にエコノワを普及させ、SDGsにも掲げられている「安全な水とトイレを世界中に」の達成に貢献するのが夢だ。

「以前、エコノワを導入いただいた農園の方がすごく喜んでくださって、清潔なトイレがあるって本当に大切なんだと実感しました。海外の方から日本のトイレはきれいだといわれますが、これを世界に広げていきたい。万博を機に多くの海外の方にエコノワを知っていただけたらうれしいですね」。

CEO 加守 清孝氏

■ 2030年はこうなる ■
海外支社を作り、世界各地にエコノワを広げている。

(取材・文/福希楽喜)

株式会社TI plus ホールディングス

CEO

加守 清孝氏

https://www.ti-plus-hd.com

事業内容/排水リサイクルトイレシステムの設計・製造・販売、杉江能楽堂を活用した文化振興事業