商品開発/新事業

校正作業のムダから人々を解放する「文化」としてのレビューツール

2024.11.11

チラシやカタログ、Webサイト、広告動画など、私たちは毎日、何かしらの”制作物”を目にしている。しかし、どれほどの苦労を経て作られているか、思いを馳せる人は少ないだろう。
制作過程には、デザインや文字をチェックして修正指示を出し、修正されたものを再度確認する「校正」という作業が必ず発生する。多くの場合、紙で印刷し、担当者に回覧して修正を書き込んでもらい、戻ってきたものを清書して制作者へ送るというアナログな作業で行われている。ここにビジネスチャンスを見出したのが、コンテンツの校正業務をDXするコミュニケーションプラットフォーム「Brushup」を開発・販売する株式会社Brushupの水谷氏だ。

大学卒業後、ITソリューション企業に就職。約13年勤めた後、フードデリバリーを手がけるベンチャーやアプリ開発ベンチャーで活躍する。その間、システムエンジニアとしてさまざまなITツールの開発やソリューションに関わり、プロジェクトマネジメントも数多く経験した。

日々の業務で問題視していたのが、非効率な業務に追われているクライアントの姿だ。「どのお客さまも毎日大量のメールと向き合い、時には過去のメールを探したり、同じことを何度も伝えたりして業務に忙殺されていました。当時、To Doをさばくためのタスク管理ツールは普及しつつあったのですが、デザイン制作の管理に特化したサービスはなかったんです」。

そこで水谷氏は、オンラインで制作物の進行管理ができるツールの開発に着手。当時はアプリ開発ベンチャーに在籍しており、社内の新規事業として事業化を志願したという。2015年にはサービスとしてリリースし、改良を続けながら事業拡大をめざしていたが、よりスピーディーな環境を求めて独立を決意。2017年に株式会社Brushupを設立し、代表取締役に就任する。

同じ年、開発したツールがグッドデザイン賞を受賞。複数の制作物を一元管理でき、個々の制作物の修正の履歴は1か所のタイムラインに集約される。修正指示を手書きで書き込める直感的なUIも秀逸。これらの点が評価され、審査委員からは「制作会社ごとに個別最適化されていたデザインのレビュープロセスを標準化しようという試みは高く評価できる」と期待のコメントが寄せられた。

直接書き込むことができる直感的なUI

順調な船出に見えたBrushupだが、ここからが苦労の連続だったという。「最初は『デザインチームのためのツール』をコンセプトにしていたのですが、デザイン会社以外の企業からもお問い合わせがあり『デザインを発注する側にターゲットを広げた方がいいのでは?』と再検討しました。そこで、デザインのチェックの方にフォーカスをあて、『レビューのためのツール』というコンセプトに変えたのですが、今度は概念的すぎて伝わらず、二転三転してしまいました」。

コンセプトが迷走を続ける一方で、顧客の獲得も苦難の道のりだったという。認知が広がらないことに加え、サービスへの理解も得られず「校正は紙で」という固定概念が大きなハードルとして立ちはだかった。「当時はまだ『SaaS』というビジネスモデルが一般的ではなかったので、従来の仕事のフローをわざわざ変えてまでオンラインサービスにお金を払う企業はほとんどいませんでした」。

転機が訪れたのは新型コロナウイルスの感染拡大に揺れた2020年の春先。外出が制限され、出社を伴う紙での校正は“命がけ”の作業になった。Brushupへの問い合わせは急増し、メディアにも取り上げられるようになった。ある教育系の大手企業は、約1,000人の社員への導入を即決したという。

それまで、水谷氏がほぼ一人で営業から経営まで担っていたが、コロナ禍以降は組織も徐々に拡大。現在は営業だけで17名を抱えるまでに成長した。それに伴い、サービス導入の成果を実感する顧客も増えている。

2024年にはさらなる飛躍を求めて大阪トップランナー育成事業に認定。販路拡大や、AIも活用したプロダクトの機能拡張に本腰を入れる。めざしているのは単なる校正作業のDXではない。レビューツールを「文化」として根付かせることだ。

「メールやチャットが文化として定着したように、フィードバックを可視化したり、自分の成長を振り返ったりする『レビュー』も同じ流れを引き継ぐものだと考えています。ただ自社のサービスを販売するだけでなく、その結果として働き方や人々のコミュニケーションを変える存在になりたい。そのためにも、Brushupを『文化』と呼べるようなポジションにまで高めることをめざしています」。

代表取締役 水谷 好孝氏

(取材・文/福希楽喜)

 

Brushupも認定された【大阪トップランナー育成事業】とは

大阪トップランナー育成事業は、医療・介護・健康分野等において、新たな需要の創出が期待できる製品・サービスの事業化に向けてプロジェクトのブラッシュアップをサポート!さらに認定されたプロジェクトは、きめ細やかな個別支援を行い、市場化までを徹底的にサポートしています。
https://www.osaka-toprunner.jp/

◎Brushupの詳しいページは↓コチラ↓
https://www.osaka-toprunner.jp/project/introduce/brushup-inc

株式会社Brushup

代表取締役

水谷 好孝氏

https://www.brushup-inc.com/

事業内容/校正業務をDXするコミュニケーションプラットフォーム「Brushup」の開発