株式会社LIGが挑む、発達障がいがある子どもたちの未来を切り拓く挑戦物語
大学卒業後、6年間専門学校に通い、柔道整復師と鍼灸師の仕事を続けていた福井氏。あるとき発達障がいの子どもを育てる友人から、さまざまな運動を通して子どもの可能性を伸ばす「運動療育」という方法があることを知らされた。
運動療育に関するセミナーを受けて理解を深める一方、実際に障がいのある方とかかわってみようと、誰もが一緒にスポーツを楽しむスペシャルオリンピックスに参加。障がいがある人と一緒にプレーをするユニファイドサッカーを体験した。「私自身は競うサッカーしかしてこなかったので、チームワークや相手と協力すること、人を思いやることも身につくスポーツの新たな価値に気づくことができた」と話す。
独立して7年ほど続けていた柔道整復師、鍼灸師の仕事を断ち切って新たな道に進むことには勇気を要したが、「もともと、誰かに喜んでもらえていることを直接実感できる仕事がしたいと考えており、運動療育はそれを実感できる仕事だと思えた」と語る。
そして、2017年1月に障がい児通所支援事業所「運動療育のかがやき」を開設する。さまざまなプログラムを通じて、子どもたちが自分の居場所を見つけるとともに、他人の気持ちを思いやるといった社会性を学ぶことに主眼を置く。当初2か月間は閑古鳥が鳴いたが、ひとたび利用者がつくと口コミで広がり翌年には2か所目を開設した。運動療育に取り組んで改めて感じるのは「学校教育は画一的で、これができなければだめというレッテルを貼られてしまう。そこに生きづらさを感じている子が多いこと」だという。
そこで、2020年には得意なことを通して可能性を広げるべくサッカーに特化したFC.LIGを設立した。ゲーム中に自分本位の振る舞いをする子どもにはその場ですぐに話しかけ、なぜそうしたのか本人の気持ちに耳を傾け、その行為で他人がどう思うかを聞き、一緒に考えていくプロセスを大切にしている。3歳の頃から通っている子どもは当初発語がなく思い通りにならないと周囲に感情を発散していたが、今ではサッカーが大好きになり、よく話すようになり感情もコントロールできるようになったという。
障がいがある子どもがいじめにあうのは、無知から来るとの考えから、2019年には、障がいの有無にかかわらず子どもが一緒に運動を楽しむ「みんなの運動会」を地元の小学校で開いている。また、2022年にはユニファイドサッカー協会を設立し、誰もが一緒に試合をする大会を開いている。「一緒に過ごす機会が増えれば、ほかの子どもの気持ちに想像が及び、自分がみんなのためにできることを考えるようになる。特別扱いせず、ごく普通の友達として接する関係ができれば」と語る。
「障がいがある人が、働く選択肢を広げられるように」との思いから2021年には淡路島に就労継続支援B型事業所を開設し、農業の就労の場所を提供している。「開墾体験をしてもらうと、自らで考えてチームを作り、協力し合って作業を進めていくなど、農業の持つ可能性を感じる」と話す福井氏。いずれはグループホームなども整備し、農業と障がい者の就労と両方の課題を一緒に解決できるような場所にしたいと考えている。「楽しみの中からすべての人が可能性を輝かせる社会づくりに貢献する」という理念の実現に向け他にもさまざまな構想を温めているところだ。
(取材・文/山口裕史)