人事制度改革と経営理念の再構築で描く、株式会社TKKワークスの持続的な未来への挑戦
前田氏はもともとホビー用ラジコンメーカーで技術者として働いていたが、航空機用装備品メーカーの東京航空計器株式会社の出資を受け設立した株式会社TKKワークスに、同僚の技術者とともに2017年に合流した。以降、同社は産業用ドローンに特化し、ドローンの操作に使う無線通信機やその他周辺機器、ドローン本体も製造し、ドローンメーカーなどに供給している。機体の位置情報などを把握するフライトコントローラーは東京航空計器で製造しており、「ドローンベンチャーの中でも無線機から機体までを手掛ける会社は珍しく、無線に関する総合力が強み」と前田氏は、同社の特長について語る。
会社に転機が訪れたのは、2022年6月のこと。東京航空計器を傘下に持つKODEN(コウデン)ホールディングス(HD)の意向で、KODEN HD傘下の会社となったのだ。それに伴い、東京航空計器出身者で占められていた役員陣が引き払い、開発部門のトップだった前田氏が社長に、管理部の責任者だった吉田氏が取締役に就任した。
2人を除く社員の8人は33歳から65歳までと年齢層は幅広いが、すべて技術者で肩書を持たない。機構設計、電気設計、ソフトウエア設計のエンジニアがおり、開発案件ごとに数人でプロジェクトチームをつくり、複数の案件が常に動いている状態だ。既存事業であるドローンの無線機の開発に加え、新体制に変わって以降は防災無線や船舶無線などの新プロジェクトも動き出した。「社員の大半が開発業務に専念しているだけに、あらためて会社の進む方向性を決めて皆で共有し、中期経営計画をつくっていく必要を感じた」と吉田氏は話す。
まず着手したのは経営理念の策定だ。理念を固める前に、前田氏と吉田氏の2人で、これまで大切にしてきたことを振り返り、「お客さまの困りごとに対してどのような解決策が提案できるかを考え抜く、そしてその姿勢を繰り返すうちに信頼関係ができた。そうした経験の積み重ねが社員一人一人の技術力向上にも繋がって難しい仕事をこなせるようになる」ことを確認。その経験を踏まえて「私たちは技術と信頼で従業員とその家族の幸せを実現する」という経営理念に再定義した。さらに行動指針には「お客さまの要求以上の価値と信頼を提供する」「常に幅広い視野を持つ」「自分で考えて積極的に行動する」「失敗をおそれず挑戦する」などを掲げた。「ドローン以外の新たな分野に挑戦するにあたって、自ら率先してチャレンジしたいと考えられる社員の集団にしたいと考えた」と前田氏。
併せて、「この会社で働き続けたい」と思ってもらえるように、人事評価制度も新たに設けることにした。「特に若い世代の社員にとってモチベーションが高められるような制度設計を考えた」と吉田氏。職務等級を定め、等級ごとに求められる技術レベルや能力を明文化したうえで、それに向けて自分が何を達成すべきかを考え、実践する目標管理制度を導入した。さらに公平を期すため、社長、取締役も含め10人それぞれが他の社員の評価を行う360度評価も取り入れることにした。評価項目は「仕事のスピードが速い」「会社を良くする改善提案をする」「他の仕事に気持ちよく協力できる」など10項目に及ぶ。「好き嫌いで評価を決めていないことを可視化できることが大事。自分では気づかない点について評価を受けることで、良い部分は伸ばし、悪い部分は修正していってほしい」と語る。また、前田氏に続くマネージャーを養成すべく、等級が上がるごとにマナーやコミュニケーションに関する研修が受けられるなど人材育成についても積極的に考えている。
これらの取り組みは4月から実践に移したばかりだ。「10人でスタートしたまだまだ若いベンチャー企業。みんなで助け合いながら成長し続け、夢を持てる会社にしていきたい」と意気込んでいる。
(取材・文/山口裕史)