ちょぼちょぼ売れるくらいがちょうどいい
釣り竿を置いておくための「竿受け」は釣りの用途に合わせてさまざまな特性が求められる。同社では、釣れるまでに時間を要する投げ釣り用に竿を持ち続けずに済むよう三脚タイプの竿受けを開発したのを皮切りに、チヌ釣りがはやった時は筏釣り時に仕掛けを取り付けやすいように、船釣りが普及してからは船上で揺れても安定させられるように、とブームに合わせて商品を送り出し、今では20ほどのラインアップがそろう。
もともと木田氏の祖父が工作機械メーカーとして創業。昭和30年代に釣具メーカーから釣り用に使う鉛製おもりを造る自動機の製作依頼を受けたが、その会社が倒産したため、自らその機械を保有し、製造したおもりを販売するところから、釣り業界に参入。以降「大手が手掛ける釣竿や糸、リールなどの基幹商品の周辺で使う道具で、あると便利なもの」に着目し、商品化に取り組んできた。
商品のアイデアを出すのはもっぱら自らも釣り愛好者である木田氏。工作機械を扱っていた先代までは素材を削り出して試作品を作っていたが、今ではCAD/CAMで設計し、3Dプリンターを使うようになった。ただ、試作品を作った後に社員が実際に使ってみて気づいた課題をもとに5、6回改良を重ねて商品化するやり方はずっと変わらない。例えば釣った魚をつかむグリップの歯の形状は大きすぎると魚の体を傷め、小さすぎると歯の間がうろこで目詰まりする。ちょうどいいところを突き詰めていくのだ。
もう一つ貫いてきたのは「大ヒットを狙わない」こと。例えばミリタリーデザインの容器はヒットするやすぐに競合メーカーが後追いしてきた。それを教訓に商品化したオオサンショウウオをデザインしたシリーズは「もの好きしか買わない」ため、真似する業者は現れていない。「ちょぼちょぼ売れるくらいがちょうどいい塩梅。数で言えば年間5,000個ほどかな」。
現在扱う商品は300アイテムほど。その中には30年ほど前に送り出した商品も数多くあり、めぐりめぐって再評価されることもある。すでに償却が終わっている古参商品は利益率が高く「古い商品で稼いだ利益を新商品開発に投資している」という。
現在のテーマは木田氏に代わる商品開発担当者を育てることだ。委ねつつある若い世代を見ていて感じるのは「せっかくのとがったアイデアが周りに相談して丸くなってしまうこと」。そして「最初から完璧をめざそうとしすぎていること」だと言う。「自分の感性を信じること」「まずつくってから良くしていけばいい」とアドバイスしている。
最後に木田氏自身が今どんな商品を温めているのか尋ねてみたところ「あー、これこれ」と、いかにも噛み付いてきそうなある魚の形をしたグリップが出てきた。確かに5,000個くらい売れそうだった。
(取材・文/山口裕史)