人を呼ぶ空間をつくって、まちを再生しよう
9(ナイン)株式会社は空き家・空きビル・遊休地のリノベーションを得意とするデザインベンチャー企業。古民家の設えを蘇らせた谷町の「9別邸」や、コンテナを利用した難波のギャラリーホテル「DISTORTION9」など、設計デザインを手掛けた宿泊施設の運営も行う。
近年は、グランピング施設の設計依頼が増えており、泉南の「URBAN CAMP HOTEL MARBLE BEACH」は、海を望む独立ヴィラのパティオでBBQとジャグジーが楽しめると、コロナ禍でも予約が絶えないトレーラーホテルだ。
9の代表兼クリエイティブディレクターである久田氏は、ファッションデザイナーへの道を挫折して30歳で大工になり、建築・インテリアの世界に飛び込んだ経歴の持ち主。新築住宅で腕を磨いたあと、リノベーションブームを感知して自宅を1年かけてDIY。モデルルームとして約100組を集客し、新規受注を得て本格的に事業をスタートした。
住宅から店舗設計へと仕事が広がるなか、堺市の茶山台団地でリノベーションの全工程が体験できるワークショップ開催に参画。「主催側にとっては大変なプロジェクトでしたが、通しで参加した約20名の方はいまもすごく仲がいい。一緒にものづくりをする体験は仲間を生み、まちを創るんだと気づきました」。
そして、久田氏は動き出す。ものづくりの楽しさを仲間と共有できるようにと、コンピュータ制御の木工切削機を購入し、プラモデルのように板からパーツを切り離して組み立てる家具キット「プラモ家具」をリリース。また、自分らしい家を安価に失敗なく選べるようにと、完成度90%で販売する「未完成住宅」のサービスを開始。自宅で床・壁・天井を選び、家具がコーディネートできるシステムも開発中だ。
さらに、「建物の設計デザインからもう少し外へ出て、まちの再生にも働きかけたい」と話す久田氏。まちに人を呼ぶホテルを建てて運営するのと同時に、ホコリをかぶったまま壊されていく日本伝統の建物や文化なども残していきたいと望んでいる。
「私が生まれ育った滋賀県の山間部のまちは、過疎化が進んで10年後の存続も危うい状況。そんな日本各地の過疎地に、上限1億円の事業再構築補助金を利用してグランピングやスパ施設、BBQ場など、魅力的な施設をいくつかつくって人を呼び、再生することは可能なはず」と提案する久田氏。
「想いを実現させるためには、仲間を募って会社の規模を大きくすることも必要。そして、日本人にしかできない設計デザインを世界に発信していきたい」と、あくなき挑戦を続ける。
(取材・文/花谷知子 写真/福永浩二)
≪9も出展!オススメイベント≫
【空間演出デザインフェスタ2022】
今回の展示会では、さまざまな空間の設計や商品・サービスを持つ企業が出展し、店舗の開店や病院・ホテルなどの快適な空間づくりを提案します。