堅実な経営スタイルを支え続ける相棒
大阪産業創造館プランナー 中尾 碧がお届けする
社長だって一人の人間、しんどい時もあります。そんな時にモチベーションの支えとなり、「一緒に頑張っていこな!」と声をかけたい“人”または“モノ”がきっとあるはずです。当コラムでは社長のそんな“相棒”にクローズアップ。普段はなかなか言葉にできない相棒に対するエピソードや想いをお伺いしました。
【 vol.10 】アートケミカル株式会社~堅実な経営スタイルを支え続ける相棒
今回取材したアートケミカル株式会社は、フッ素樹脂を使った塗料の開発を顧客ごとにオーダーメイドで行う企業だ。
同社が扱うフッ素樹脂塗料は、従来よりも低温で塗装後の焼成が可能であることから、ニッチではあるが通常のフッ素樹脂塗料では対応できなかった業界で使われている。
社長の中山雅博氏は、学卒後約10年間システムエンジニアとして従事していた。転機は父である現会長が前職を定年退職後に同社を創業したことだった。当時、中山氏はシステムエンジニアの世界で順調に経験を積んでいたが、会長の年齢と、事業に対する想いを分かち合えるのは自分のみであると考え、入社を決意した。
もちろん入社当初は業界や化学に対する知識や経験はなかったが、専門的な知識を持つ人から教えてもらったり、自ら調べたりしているうちに、塗料が持つ独特の難しさと面白さに惹かれていった。約5年前に社長に就任し、同社に入社して今年で15年目となる。
入社してからこれまで、リーマンショックの時もその後の好景気の時でも、中山氏は「広げすぎず、堅実に経営する」という考え方を大切にしながら業績を伸ばしてきた。
どんな時も中山氏の考えがブレないように支えてきた存在が、今回紹介する相棒のD・カーネギー作「人を動かす」だ。
著者の経験が書かれた世界的なベストセラーであるが、中山氏の本は何と昭和21年発行のもの。同社へ入社して間もない頃に偶然手に取った本で、いつも近くに置き、ふと思い立った時にすぐページをめくり、自身の経営を見つめ直している。
本の中で経営者として中山氏が一番心に留めている言葉は「良い聴き手となれ」だ。理論上正しくても化学反応は目に見えないため、実際に混ぜてみないと本当に理想の物ができるかわからないという塗料の世界。顧客の要望を正確に形にするためには、先方が言わんとすることをしっかりと聞き取る姿勢が重要である。
難しい案件であっても粘り強く顧客へのヒアリングを重ね、真摯に答え続けることで結果を出してきた。顧客から出された要望をどう実現しようかとじっくりと考えている時が、中山氏にとって一番好きな時間だという。
「経営」には正解がなく、試行錯誤の連続だ。自分の判断や考え方は合っているのだろうかと、不安になった経験は経営者であれば誰しもあるだろう。その際、自分の経営を客観的に振り返るものがあれば心強い。
中山氏の場合は、戦後まもなく出版され、世界情勢の大きな変化を乗り越えて愛されてきた名著だった。本を傍らに、これからも顧客の要望に真摯に答えることをモットーとした堅実な経営姿勢は崩さない。
(取材・文/大阪産業創造館マネジメント支援チーム プランナー 中尾 碧)