日本で3番目に古い圧力計メーカーの社長に聞いた、100年続いてきた秘訣
計器に内蔵された金属管の曲がり具合で圧力を測るブルドン管圧力計。約170年前にウジェーヌ・ブルドンが考案した圧力計で、現在も基本原理は変わらず産業用圧力計として広く使われている。
木幡計器製作所は日本で3番目に古い圧力計メーカーとして1909(明治42)年に創業。初代木幡久右衛門がこのブルドン管圧力計に着目し、江戸時代から続く家業の金物製造技術を活かして開発に成功したのが歴史の嚆矢となっている。
創業後、同社は工業化の波を捉えて業績を伸ばしていくが、高度成長真っ只中に二代目の一雄氏が急逝する。実弟の茂男氏が三代目に就任したものの、混乱する社内を鎮め組織を束ねたのは二代目の妻・民子氏だった。
現社長で七代目の巌氏は言う。「民子は私の祖母で、それは気丈な人でした。祖母は二代目が亡くなったその日に40名近くいた社員を集め、『会社を不安に思うなら辞めてほしい。しかし私は命がけで会社を守る。理解してくれる人は残ってほしい』と訴えたそうです」。
以降、職人肌だった三代目は開発を担当し、対外交渉は民子氏が全面的に担った。1964年には、三代目が大学と組んで圧力スイッチを開発して特許を取得。資本金も年々増資し、三代目と民子氏の二人三脚で企業基盤を固めていく。
その後、現社長の父・康祐氏が四代目、民子氏が五代目、現社長の母・喜久恵氏が六代目と家業を守り継ぎ、七代目の現社長が将来継ぐ前提で入社した。「すでに自社製品が価格競争に巻き込まれていて、これから先どうやっていったらええんやと思いましたね」。
そんな同氏は「価格競争から抜け出すためには新しいことをせなあかん」と考え、コンピュータ関連事業部を新設。さらに現在、医療機器とIoT分野への参入にチャレンジしている。
医療分野に着目したのは、母で六代目の喜久恵氏の病気がきっかけだという。「気づいたときは末期の肺がんでした。母もそうでしたが、呼吸器系の病気は初期症状がほとんどありません。ところが当社の技術が早期発見に役立つ可能性があるとわかったんです」。
以前、楽器店からの依頼で呼吸の圧力を測る演奏トレーニング用機器を開発していた。その技術が医療機器に応用できると知り、「うちがやらなどこがやる」と使命を感じた。
自治体の支援メニューも積極的に活用して開発と準備を進め、来年度に医療機器販売の許認可がおりる予定だ。
代々受け継いできた理念は「誠意は通じる」。正確さが要求される測定器だからこそ、いつの時代も顧客を大事にし、誠実な商売に徹してきた。
「百年続いてきた秘訣は、時代のニーズに応えてきたから」。ブルドン管は170年前の技術だが、必要とされてきたからこそ同社製品も残り続けている。
「今後も伝統ある機械式圧力計を守りつつも、社会に求められる製品を誠実につくるのみ」。七代目は先を見据える。
(取材・文/高橋武男 写真/福永浩二)
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