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【あぁ、麗しのファミリービジネス】Vol.18 損して得とれ、急がば回れ 時代は短期的な利益から長期的にもたらされる価値へ

2016.04.06

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大阪市内のとある研修施設。
食い入るような表情で講師の話に耳を傾けるのは、インドネシア、フィリピン、ベトナムから来日した経営者&後継者18人。
日本の長寿企業文化を学ぶために来日しました。

2月29日から3月4日までの5日間。朝から晩まで講義に会社見学、プレゼンテーションとカリキュラムでぎっしりのスケジュールにも関わらず、講義に臨む彼らの視線は真剣そのもの。

「会社を長く存続させたい」「家業をもっと価値ある会社にしたい」「そのために絶対何かを得て帰国するんだ」。彼らの気迫と情熱にこちらが圧倒されるほどでした。

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実は、この研修コース、かねてから「存続力は競争力」を提唱しているワタクシ山野が企画立案しました。
その名もAKINDO JUKU INTERNATIONAL。一般財団法人海外産業人材育成協会HIDAさんと共同で年に数回実施しています。

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ご存知のように日本は世界一の長寿企業大国。
100年以上続く会社のほとんどが同族経営。

ではなぜ日本の会社がそんなに長く続くのか。
日本の会社の97%が、同族経営の中小企業であることが関係しています。

関西大学校友会講演スライド160216

<長寿同族企業の特長>
◆同族経営だから経営者に存続の執念が自然に働く

◆規模の拡大より存続(安定)を優先。事業の急成長・急拡大はリスク。

◆存続のために変化・挑戦が必要だと経営者が強く認識している。

◆存続のために選択と集中を重ねる。自社の強みを見極める。

◆自社の強み(コア)を活かした勝率の高い挑戦を重ねる。関連多角化。

◆会社の歴史が信用となり新たな挑戦の事業化を後押し。

◆会社に関わる人がハッピーじゃないと会社も存続できないと強く認識。

◆存続のために、社員、取引先、地域と時間をかけて信頼関係を築く。正社員率が高く、離職率が低いのも特長。顧客より仕入れ先を大切にする風土も。

◆長い歴史の中でいい時もあれば悪い時もやってくることが語り継がれている。だからいい時に調子に乗らずリスクに備える。

◆だから不況期でも、資金力のみならず、信頼関係を築いてきた社員とともに乗り切れる。
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理にかなってるでしょ。

この流れのベースになっているのは、企業の存続を最優先に考える経営者の存在です。
同族企業の経営者の多くは個人保証もしていて、人生のリスクを取っているからということもあるかもしれません。
でもそれ以上に、長寿企業恩経営者にとって、会社は自分の「個人の所有物」ではなく、「預かりもの」という認識が強いように感じます。
会社は先代や次代の経営者から預かっているもの。だから自分の時代で価値を下げることはもちろん、失くしてしまうなんてことは絶対にしてはいけない。
「経営者の最大の使命は存続なり」。多くの長寿企業経営者がそう仰るのも納得です。

誤解を恐れずいいます。
会社の存続について、サラリーマン社長やレリーフで送り込まれた経営のプロといわれる人たちに、ここまでの執念をもてるのか。
自分の就任期間中に結果を出そうと、株主を最優先して四半期決算の結果に右往左往したり、短期的な利益をねん出するために、行き過ぎた効率主義や成果主義を断行したり。
「今だけの利益」を追求した結果、疲弊していっている会社が多いのも現実です。

とはいえ、ファミリービジネスはどの会社にも通用する黄金の「戦略」や「戦術」はありません。
黄金のルールが確立できない最大の理由は、同族企業の数だけ事情が違う「家族」というファクターがあるから。

家族だからこそ底力を発揮できることもあれば、家族だからこそ生まれる軋轢もある。
家族だから頑張れるけど家族だからややこしい。まさに愛憎です。

ファミリービジネスは、会社に関わる人間が持つ感情や寿命が大きく影響することもあり、科学できないテーマとされてきました。
でも、最近は同族企業と非同族企業の業績比較に関する調査が国内外で発表されています。特に不況期のresiliency(復活力)に関する比較は興味深いものがあります。
また、日本の同族企業について長期データを用いた実証分析を専門とする京都産業大学の沈政郁准教授は「平均的に考察すると同族企業の業績が非同族企業より優れているといえる」と語っています。

長期的な視点で経営判断を重ねることが、結果的に業績につながるというデータが次々に発表され、これまでM&Aが主流だった米国でも家業承継が増加傾向にあります。

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話をアセアン経営者の研修に戻しましょう。
一週間、日本の長寿企業経営を学んだ彼らの最終プレゼンテーションは、日本人後継社長の皆さんにもお聞かせしたいほどの素晴らしい内容でした。

そしてわかったことはファミリービジネスの悩みや課題は万国共通。
そして、「父親が苦労した会社を存続させたい」「子どもに誇れる会社にしたい」という気持ちも万国共通。
国は違えど、ファミリービジネスの一員という共通項のもと、泣いたり笑ったりの一週間。
私にとっても想定をはるかに超える超感動的な経験となりました。

外国人経営者と一緒に日本の長寿企業文化を学んだ一週間。
日本国内でさえ、時代遅れに思われがちな長寿企業文化ですが、理にかなっている点が多いことを改めて感じました。

時代を超えて、会社を長く続かせようという経営者の強い意志が働くところには、どんな時代にもどの国にも通用する原理原則がベースの企業文化が根付いています。

「長い目で見る」「損して得とれ」「急がば回れ」。
流れが速く不確実な時代こそ、日本の長寿企業文化の原理原則経営が世界の王道になるなのかもしれません。

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【筆者Profile】
大阪産業創造館 山野 千枝

本紙「Bplatz press」編集長。数多くの中小企業を取材する中で、家業を受け継ぎ、事業を展開する経営者の生き様に美学を感じる一方、
昨今の後継者不在問題を憂いて「ファミリービジネスの事業承継」をテーマに現役の後継社長とともに関西学院大学、甲南大学、関西大学で教鞭をとる。
実家も四代続くファミリービジネス。