産経関西/産創館広場

太丸鋼材に特化して商機をつくる

2012.08.13

 株式会社新興商会(大阪市港区)は、太丸鋼材(円柱型の太い鋼材)を専門に取り扱う卸売業。太丸鋼材の用途は建機や産業機械などの製品の部品として研削加工する歯車や、そのままの形状で使用するシャフトのシリンダーなどに使われる。一般の鋼材と比較すると使用する分野が限られるため、鋼材業者で在庫を持っているところは少ない。

 創業時は一般鋼材の卸売りとしてスタート。10年ほどたった時に、付き合いのある商社から太丸鋼材を紹介された。当時、他社との差別化を考えていたこともあり、それまでの商材を太丸鋼材に徐々にシフト。10年かけて太丸鋼材専門店として現在の事業の位置づけを確立した。

 商材を太丸鋼材に限定したことで、ビジネスモデルが加工業から卸売業へと大きく変わった。「弊社に他社との競合という考えはない。他の鋼材業者が持っていない太丸鋼材に商材を限定することにより、他社に太丸鋼材の引き合いがあった時は、弊社に自然と注文が回って来る。同業は競合するのではなく、うちのための営業をしてくれているので、ありがたい顧客」と小川茂久社長は語る。

 また商材を限定することで納期も大きく短縮することができた。普通は、一般鋼材の溶断加工をするには、ガスやレーザー、プラズマを使って切断をするのだが、表面が高温になるため、断面を熱処理する工程が必要になる。一方、太丸鋼材は円柱の鋼材なので、“素材”“太さ”を指定してもらい、必要な寸法を図って研削加工を行えばすぐに出荷することができる。これが納期を短縮できた大きなポイントである。

 しかし卸売業へとビジネスモデルを変えたことにより、当然リスクも生まれた。在庫を持ち続ける商売は、材料の価格変動や景気に大きく左右される。リーマン・ショックの時には、売り上げの減少はもちろんのこと、鋼材の価格を決めるスクラップ(鉄くず)の値段がつかない状態にまで下がった。現在でもリーマン・ショック前の3分の1くらいまでしか回復していない。高値で購入した在庫を市場の値段に合わせて売らねばならず、鋼材によっては売るたびに赤字という製品もあったが、価格に応じて細かく仕入れ時期を工夫したため、決算では何とか利益を出すことができた。

 今後の抱負は「全国的に見ても弊社で取り扱う商材は珍しいが、現在はほとんどが近隣の顧客。そのため他の地域にも出店することを目標にしている」という。派手さはないが、長年にわたりものづくりに携わってきた経験を生かし、着実に次の一手を考えている。

(大阪産業創造館 プランナー 齋藤考宏)

㈱振興商会

▲太丸鋼材の数々。さまざまな種類を扱うことが同社の強みとなっている

株式会社 新興商会

http://shinko-shokai-steel.com/

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