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守るものと変えるもの 先代が守った活版印刷で新たな風を吹き込む

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父の持病でいつの間にか社長に

活版印刷を使った文字の温かい質感が人気を呼んでいる。山添が2年前に立ち上げた「活版名刺ドットコム」を通じた受注も好調で、かつて工場の隅でほこりをかぶりかけていた活版印刷機が今、名刺やはがきを忙しく印刷している。だが、入社して20年になる野村氏が印刷業を本気で続けていこうと考えるようになったのは、ここ2、3年のことだという。

自宅を兼ねていた印刷工場は、幼少期の野村氏にとってそのまま遊び場となった。だが、職人たちが手を真っ黒にして働く印刷業は幼心にもかっこいいとは思えなかった。高校生の頃、姉と自分のどちらが父の仕事を引き継ぐのだろうかと考えたが、「姉が継ぐものと思い込んでいた」という。

短大を卒業後、姉に続き入社する。その数年後、姉は結婚して工場を去った。父が心臓病を抱えていたということもあり、父とともに代表取締役に名を連ねることとなった。「腰掛けのつもり」が、気づけば社長に。だが、赤字が続いた。ある時、会社の存続について父母を交えて話をする機会があった。「家族だけで再出発する方法もある」と話す父に、「自分たちだけ続けることはできない」と反発した。経営者としての自覚が芽生えていた。

活版印刷の価値に気づかされる

既存の顧客だけを回る営業から脱し、デザイナーや編集者たちが交流する場に出かけるようになった。工場に活版印刷機があ
ることを話すとデザイナーたちが興味を持ってくれた。野村氏が活版印刷で思い出すのは、阪神・淡路大震災の時のことだ。棚が崩れ、活版印刷に使う数万本の活字が床に散らばった。「いっそのこと卓上の名刺印刷機に切り替えればいいのに」。野村氏は思ったが、父は棚に活字を1本ずつ戻す気の遠くなるような作業を半年がかりでやり遂げた。

それから10数年。デジタル技術全盛の今、活字特有の文字や凹凸の深さなど、印刷物の表情が一枚ずつ異なるところに、ぬくもりを感じるのか、先代が愛着を持つ活版印刷に再び脚光を浴びる日がやって来た。「名刺を作ってほしい」という依頼は瞬く間に増えた。

「社外の人のおかげで活版印刷の価値に気付かされた」と野村氏。活版印刷機を持っている同業者と共に、活版印刷の楽しさをアピールするイベントも開いた。会場に訪れた両親はうれしそうだった。

先代にはできなかったことで会社を変える

3年前の10月。先代は完全に経営から身を退いた。野村氏はそれを機に、赤字でも払い続けてきたボーナスを廃止し、給与減
額に踏み切った。会議を開き、社員の間で仕事の情報を共有した。「従来のやり方をかたくなに続けてきた先代にはできなかったこと」を次々に実行に移した。

一方で先代が守ってきた活版印刷に新たな風を吹き込んだ。ネット上で活版印刷の受注をする「活版名刺ドットコム」を立ちあげると、活版印刷の仕事だけでなく、付随するさまざまな印刷の仕事も入ってきた。今では活版印刷の売上げが全体の2割を占めるまでになった。

活版印刷は競合も増え差別化が必要な時代になっている。「名刺やはがきのテンプレートを用意し注文を増やすだけでなく、活版印刷の好きな人が好むようなアイテムもそろえていきたい」と野村氏。変えるもの、守るものを見極めながら二代目の挑戦が続く。

 

 

2013年01月10日
有限会社山添
代表取締役  
野村 いずみ氏

創業/1968年 従業員数/10名 事業内容/名刺や封筒、伝票などの印刷を手掛けてきた。近年は、活版印刷機を使った印刷の風合いを好むデザイナー向けの「活版名刺ドットコム」を立ち上げ、好調に推移している。

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