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従業員の度重なる退職 理念の刷新で取り戻した求心力

2013.10.10

この会社にはビジョンがない…」従業員の一人は、そう言い残して会社を去っていった。金谷氏は、「そのひと言が心にグサリと刺さり、経営者としての責任を感じた」と振り返る。

会社の立ち上げに理念なんてなかった。37歳のとき、勤めていた運送会社が倒産。「給料の未払いもあり、家族を養う生活資金にも欠く状況に追い込まれた」。再就職も考えたが、「最初の給料日が来るまでの時間も待てないほどの窮地だった」。起業の背中を押したのは旧知の取引先だ。「お前、自分でやってみいひんか」。そのひと言で決意し、同社を創業。「理念を掲げるよりも、家族を守る。その一心でした」と打ち明ける。

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創業後、取引先から物流業務請負の仕事を紹介され、事業を軌道に乗せていった。そして数年後、同業他社を吸収合併する機会に恵まれ、従業員と顧客を引き継いだが、売掛金は旧経営陣が回収済み。同社には、1千万円以上の未払い費用の支払いがのしかかった。ともあれ、これを機に事業規模を拡大できた…かにみえた。「ところが1年も経たないうちに、その吸収合併した従業員が一斉に退職したんです」。さらに追い打ちをかけるように別の従業員が独立。「最終的にはナンバー2も退職し、戦力をすべて失った」。

なぜこれほど人が辞めるのか…そう自問自答していた際、突きつけられたのが冒頭の言葉だ。

当時の経営目的は売上追求で、社員同士でノルマを競わせていた。「共有するビジョンがない中で社内競争が激化し、外に飛び出してしまった」と反省する。
これを機に企業理念を練り直し、働く目的やビジョンを明文化した。具体的には「世界一の企業」の創造を企業理念の1つに据え、「世界一とは売上げや利益ではなく『世界一愛される』企業」と定義。そのために「社員第一主義」を貫き、“ノルマなし”“社内競争のない会社”を掲げた。

「社員を第一に考えるからこそお客さんを大切にでき、その結果、利益がついてくる」。従業員の一斉退職以降、「人を大切にする経営」にシフトして求心力を取り戻し、現在は新たな事業領域の創出にも乗り出している。

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▲「経営の目的を見失いそうになったとき、“その先にお客さんの笑顔はあるか?”という問いかけと共に、“初心に還れ”“原点回帰”と繰り返して自戒しています」。

※【長編】波乱万丈の人生の先に見えてきた「経営の目的」とは?
https://bplatz.sansokan.jp/archives/1189

株式会社KDP

代表取締役会長

金谷 宏氏

http://www.kdp21.com/

設立/1992年 資本金/3,300万円 従業員数/40名
事業内容/物流業界に特化した人材派遣やアウトソーシング事業を行う。近年は派遣業以外の新たな事業領域の立ち上げにも力を入れ、LED照明をベースとした物流倉庫のコストダウンのコンサルティングにも取り組む。