5億円+1億円のM&Aだからこそできたこと

梱包、ギフト用のダンボール加工を手がける美販が、硬質樹脂を使ったクリアパッケージメーカーの淀紙器製作所を買収したのは2017年7月のことだ。

淀紙器は前年に2代目の社長が急逝。後継者がいなかったため95歳の母親が急場をしのぎ、売却か廃業を模索していた。

尾寅氏は、父が創業した美販の2代目社長に2006年に就任。少量でも設計力が生かせる取引先を増やしていた。

また、税理士や金融機関が持つ豊富な情報こそ中小企業の経営者にとって大切だと感じ、外部パートナーとの関わりを深めつつあった。M&Aの話を持ち込んできたのも懇意にしていた銀行の担当者だった。

「美販の売上げは5億円。淀紙器は1億円。M&Aは最低でも10億、20億円の売上げがある大きな会社がやることだと思い込んでいた」と尾寅氏。

決め手になったのは、材料の打ち抜きから折り曲げ、接着まで工程が似ていること、そして、取引先がまったく重なっておらず、双方の取引先が新たな顧客として見込めることだった。

買収に当たって求められた条件は「屋号を守ること」そして「従業員の雇用を維持すること」。自らも家業を預かる身としてその気持ちは痛いほど理解できた。

「技能や技術を持った人がいなければ空箱を買うのと同じ」と、契約前に社員と面談し、これからの仕事のこと、給与のことなど抱えていた不安の解消に努めた。

買収後まず取り掛かったのは、工場内の移動さえもままならないほどに残されていた古い打ち抜き型や図面の一掃だった。これで生産性が格段に向上した。売上げに匹敵するほどの借入金の金利を3分の1に抑えることもできた。

「小規模企業の多くは、経営者が目の前のことに追われ、外の情報を吸収する機会がない。だからこそ改善できる余地が大いにある」。経理をはじめとする間接部門は2社で共有し、互いの繁忙期に人のやり取りができることも思いのほか大きなメリットになった。

もちろん、美販の既存顧客にクリアケースという新たな提案の選択肢が広がり、売上げにも貢献している。

一方で「家業は存続が第一義。だからこそできることできないことがある。かたや、淀紙器には大胆にチャレンジできる環境があることに気づいた」という。

軽トラックを活用した運送を淀紙器で試し、保有する1.5トン、2トントラックのドライバー不足に直面している美販に導入しようと考えているのもその一つだ。

来春、社会人6年目になる尾寅氏の長男が美販に入社することになっている。「息子には淀紙器の経営を任せ、新しいことにどんどん挑戦してもらおうと思っています」。

図らずも実現したM&Aは、単なるシナジーを超えた可能性をもたらしつつある。

代表取締役 尾寅 将夫氏

(取材・文/山口裕史 写真/Makibi)

2018年12月06日
株式会社美販
代表取締役  
尾寅 将夫氏
事業内容/ダンボール加工品の製造

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