【話題のホテル】「おもてなしホテル」でNo.1をめざす
稼働率9割、うち9割が外国人宿泊客という道頓堀ホテルのロビーは、一日に幾度となくイベント会場と化す。
宿泊客は、ネイルアート、たこ焼き、着付け、コスプレなど日本ならではの伝統やカルチャーを楽しんでいる。22時半になると屋台が現れ、日本の食文化の象徴であるラーメンがみそ、しょうゆ、とんこつ、と日替わりのスープでふるまわれる。無料とあってロビーは身動きがとれないほどの混みようだ。
「おそらくこの時間は日本で一番人口密度が高いでしょうね」と橋本氏は笑う。
1970年の開業以来ビジネスホテルとして営業を続けてきたが、周辺にホテルが林立し、価格競争に巻き込まれるようになった。「同質の競争を続けていたらつぶれる」と考えた橋本氏は2008年、ターゲットを外国人観光客に切り替える。「ビジネスマン」に「部屋」、ではなく「東アジアの20代女性の個人客」に「思い出」を売るシフトチェンジを図った。
通常の誘客は日本の代理店を仲介するケースが大半だが、橋本氏は現地の旅行社と交渉し、直接取引するルートを開拓した。
従業員からの反発は大きかった。語学力、おもてなし、トラブル対応…。変化には労力がつきものだ。だが国際電話、自転車の貸し出しを無料で行うサービスを始め、宿泊客から「ありがとう」の言葉が聞かれるようになると、風向きが変わった。
ホテル運営にかかわることであれば20万円まで経費を自由に使えるようにした。自主性にゆだね、成否も問わない。毎年50万円を上限に家族を含めた医療費も会社で負担している。
「大事なことは、尊重され、誇りを持って働ける環境を作ること」と橋本氏。仕事にやりがいが感じられればそのままおもてなしの気持ちに反映されるからだ。
今では「宿泊したことで日本を少しでも好きになってほしい」という使命が全スタッフに共有されている。
来年末までに心斎橋、恵美須町へ相次いで2、3軒目を開業する。インバウンド好況に沸く大阪のホテル業界だが、「ブームに乗じただけのホテルはいずれ淘汰される」と橋本氏は警鐘を鳴らす。
目標は「2025年までに“おもてなしホテル”というジャンルを日本に確立すること。そうすればおのずと日本のファンが増える。そしてこのジャンルでナンバーワンをめざす」。
今後オープンするホテルは「ザ・ブリッジホテル」のブランドで統一する。そこには「橋渡し」の思いが込められている。
右:毎週火曜日の夜はたこ焼きなどの日本食文化体験イベントを開催。
左:季節に合わせて日本を感じられる展示を行っている。
▲専務取締役 橋本 明元氏
(文・写真/山口裕史)