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時代に合わせて業態を変化 100年続くユニフォームメーカーの経営判断

2015.04.09

―100年続く企業の経営者として、先代、先々代から受けついだものは?

堅実さは受け継いでいると思います。「潰してはいけない」本能というか、一か八かの勝負は決してしない。しかし、取れるリスクであれば積極的に取っていく。バランスが大事ですね。

そしてお互いを思いやる家族的な風土。現在取り組んでいる「ありがとうカード」プロジェクトもその一つ。日々の業務の中で感じた感謝の気持ちをカードに書いて、相手に伝え合うのですが、こんなちょっとしたことが感謝や思いやりの気持ちを醸成している。もちろん、私も社員たちに言葉を送りますよ。社内外問わず、会社を取り巻く人々への感謝の気持ちが会社の力になる。これは創業以来、受け継がれています。

―地域貢献も大切にしておられますね

それは祖父の考えを大いに引き継いでいると思います。祖父は肺病で母親を亡くしているんです。そういったこともあり、地域の医療サービスに役立ててほしいと、今の価値で約1億円を大阪市に寄付したそうです。7人も子どもがいて、家族を養うのにまだまだお金がかかる時期。家族の中には寄付に反対する人もいたそうですが、地元に貢献したいという意思が強かったんでしょうね。

このことは、そのあとに続く先代社長や私にとっても大きな誇りになり、今も全員、何らかの形で地域貢献を続けています。

―次の時代にむけ、新たな決断は?

創業100年の節目に、本社を東京に移す計画です。市場規模、情報の質と量の面で東京を外すことはできない。この先、営業拠点は東京が中心になりますが、ものづくりや管理機能は大阪に残します。企業文化の面でも、最も浸透しているのが大阪ですから。

息子が東京の支店に行って、3年目。もう大阪には戻ってくるなと言ってあります(笑)。でも家族的な風土を重んじる「アイトスらしさ」はこれからも引き継いでいってほしいですね。

―経営判断を間違うことは?

判断の間違いはいくつもありますよ。今でも間違いっぱなしです。65歳を過ぎた今、40歳の頃の判断とは違う。経験値がある方が間違わないかというと、必ずしもそうではない。今は少しリスクを取り過ぎていますね(笑)。2年後に社長職を退くことが決まっており、それまでにと焦っている部分もあるかもしれません。

―ご自分を客観視されてますね

自分に自信がないんでしょうね(笑)。自信がないからこそ、謙虚になれる面もある。社員の中にも、いろんな人がいて、みんな私にはない優れた能力を持っていると常に感じています。

―200億企業になった今も、堅実経営ですね

余分なことにお金を使わない体質かもしれません。今でも社長室はないんですよ。「ちょっとは(対外的に)見栄を張れよ」と人に言われることもあるんですが、どうもそれができない(笑)。

―アイトスがめざす世界観とは?

仕事服を通して、働くことの素晴らしさ、かっこよさ、尊さを伝えていきたい。物干し竿に父親の擦り切れた作業服が掛けてあり、それを見た子どもたちが感謝するような、そんな文化をつくりたいんです。一日の半分を着て過ごす服には魂があるはず。仕事を伝える服ですから。それを、業界全体で発信していきたいですね。

アイトスが成長するには、業界が成長していかないと成り立たない。一人勝ちでは続かないんです。今までも、業界全体のことも考えながら動いてきたことが当社の発展につながってきました。企業は社会に貢献しなければいけないんです。

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(取材・文/北浦あかね)

アイトス株式会社

代表取締役社長

伊藤 清一氏

http://www.aitoz.co.jp/

事業内容/仕事服の企画・製造・販売。製造現場で用いられる作業着や事務職用の制服、白衣など幅広く展開している。国内6つの営業拠点と3つの商品センター、海外に7つの生産拠点を持つ。