【ロングインタビュー】得意分野を補い合いながら、日本のものづくりの魂を守り抜く
―お二人がけんかすることはないのですか?
社長 会長は怒ったらもうほんとに怖いんです(笑)。けんかなんて勝てる気がしない。ふだんはめちゃくちゃフランクですけどね。だからいかに怒らせないかです。
会長 あほなこと言いなや(笑)。僕が怒られてばっかりや。
社長 会議でも会長は僕にワーッと言ってきますよ。父親ですから。でもそれでうらむようなことは全くありません。なんといっても創業者ですから。雇われ社長でも2代目でもない。言うだけの権利もあるし、実力も、根拠もあります。そこはしっかり聞かないと。
―意見が合わない局面ではどうするのですか?
社長 基本的にはものづくりは会長、販売のところは僕が判断し、やるということで手分けをしています。僕の領域では、会長は一切何も言いませんし、私もものづくりに関して言うことはありません。ただ、あまりにも思考回路がファッションに傾くと反対されます。うちは店舗から情報を吸い上げて商品企画にスピーディに結び付けて迅速に生産しているわけですが、そこから逸脱して流行を追いかけようとすると厳しいですね。
―本質的な衝突はない、と。
社長 タビオの経営理念は「私たちは世界一の靴下総合企業を実現します」です。他に解釈のしようがないほどシンプルです。だからこそぶれないのです。もし僕が、越智家の資産を守るために経営をするのであれば、失敗のリスクばかりをおそれて店舗も増やさなければ、海外に店を広げようとも思わないでしょう。国内で少なくなりつつある靴下製造業を復興させて世界にという想いは会長と一緒です。
―この理念はどのような想いでつくられたのでしょう。
会長 僕は15歳のときにこの世界に丁稚で入ったの。そのときから日本の靴下の品質は世界一やった。僕は単に日本のものづくりを守ろうと思ってるわけじゃないの。日本人には世界で一番ええものをつくれる技術があるから守るの。「微妙」という言葉を理解できるのは日本人くらいでしょう。そういう繊細なものづくりを日本人はできる。器用で頭がいいんです。だから、それを世界に知ってほしい。広げたいんです。
―社長に就任してから一番苦しかったことは?
社長 やはり売上が落ちる時です。ニッター(工場)さんに申し訳ないという気持ちです。そういうときは自分の足で、他店と自分の店を見てまわって理由を探します。それから販売員にインタビューして改善案を出します。一人2時間くらい話をじっくり聞かせてもらうこともありますね。
会長 現場のことは何もかも任せきっています。僕の現場はつくるほうやから。僕がそういうときに店でボケアホ言うたらえらいことやわ(笑)。
―プレッシャーはありますか?
社長 ここ20年衰退し続けている業界ですから。もしそれを少しでも救える可能性があるなら、たぶんうちが一番いいポジションにいる。じゃあやるしかないんです。サッカーの選手がゴール前に球が転がっているのに蹴らないようなもの。右肩上がりでない業種であることにむしろ沸き立つものがあります。
―2代目として気をつけていることは?
社長 会長の威を借りないことです。トップダウンで指示しない様にしています。2代目の立場を利用して現場に物言いをしたら、現場はうわっとなる。オープンを目前に控えた店を訪ねたとき、什器だらけだったので、2本抜くように、と言ったんです。そしたらなぜか全国の店で什器を2本ずつ抜けという指示がまわってしまったことがありました。
トップダウンだった創業者が健在の企業だとどうしてもそうなりがち。社長のバックには会長がいるから、と。だからちゃんと伝わるような言い方をするように気をつけています。
―会長から引き継いだもので、3代目に引き継ぐべきものがあるとすれば何ですか?
社長 ものづくりを守る会社だということです。奈良にある靴下工場を時代に合わせて守っていく方法は、1980年代以降は「靴下屋」という専門店を作ることでした。しかしこれから先は変わっていくかもしれません。その時代時代で最適な売り方を考えていかなければなりません。
会長 ものづくりだね。それ以外に何もない。日本のものづくりを守るというのは、世界で一番いいものをつくること。だから天地のために心を立てていいものをつくるだけなんや。
(取材・文/山口裕史 写真/福永浩二)
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タビオ株式会社
代表取締役会長 越智 直正 氏、代表取締役社長 越智 勝寛 氏
メイドインジャパンを主とした靴下の企画・卸・小売。靴下専門店の「靴下屋」「ショセット」「タビオ」を展開する。