職人に光当て ものづくりのかっこよさをブランディング
会員制リゾートホテルの営業マンだった浦竹氏が、父の経営する東亜成型に入社したのは2008年秋のリーマンショックが襲った直後だった。銀行から会社整理もやむなしと引導を渡されるほどの危機的な状況下で浦竹氏にできることは「前職の顧客に多かった経営者を訪ね、売り込むことだけ」。だが、会社案内一つないことに気づく。
会社案内を制作する会社の担当者と話すうち、「こんな会社なら仕事を発注してみたい」と思ってもらえるように会社のイメージアップを図る『工場ブランディング』の取り組みをスタートさせる。「いいものを作ったからといって売れる時代ではない。あの東亜成型やったら買おうと思わせる情報発信こそ重要と考えた」。
まずはキャッチコピーでひきつけようと現場で働く職人に話を聞いた。技術への自負、ものづくりの可能性を語るときの目が輝く姿から「型破りな考えも型にはめる」というキャッチフレーズが生まれた。工場の主役である職人に光を当てようと、「そのまま外でも着られるデザイン」でTシャツをつくり作業着にした。はじめは恥ずかしがっていた社員も、工場見学に来る人にほめられると着用率が上がった。
職人一人ひとりが熱く思いを語る様子を写真に撮りポスターにして家に貼ってもらうようにしたところ、「嫁と娘からかっこいいと言われた」とうれしそう話す職人の姿があった。ユニークな取り組みが新聞やテレビで取り上げられると新たな取引先が増え、仕事量はリーマンショック前の水準に回復した。
昨年12月末、工場に舞台をしつらえライブイベントを企画した。本番2日前。だれに言われるでもなく大掃除が始まり、床はペンキが塗り替えられていた。本番ではバンドが「HAPPY☆HAPPY」のタイトルがついた社歌を披露。「型にはまらぬアイデアで、新しい時代という型をつくろう」の歌詞を全員で口ずさんだ。
現在の目標は、「東亜成型ブランドの商品を作ること」。工場で働くのが楽しくなるような工具置き場、椅子など、社員からすでに多くのアイデアが出されている。
▲職人に誇りを取り戻すことになったTシャツ。ものづくりのかっこよさを伝えるポスター。
▲工場内には東亜成型オリジナルの5Sの標語が掲げられている。
▲昨年、工場で行われたライブイベントの様子。
東亜成型株式会社
常務取締役
浦竹 重行氏
設立/1967年 従業員/20名 事業内容/各種鋳造用金型、成型用金型を製造。鋳造する元になるモデルを砂で固めて型を取る砂型鋳造で鋳物を製造しているところが特長。また、クリエイターと協同で製造業を対象に「工場ブランディング」をサポートする事業もスタートさせている。