廃棄予定のインクを再生し、環境問題と業界課題を同時に解消
「『御社の強みは?』と聞かれて何も答えられないのが嫌でたまらなかった」。そう振り返るのは都インキ株式会社の原田氏。2003年に代表の座を引き継いだ後、営業先を回っていたときの苦い思い出だ。
「印刷用インクは毎年出荷量が減少している」と原田氏が語る通り、デジタル技術の発展とともに印刷市場は縮小路線をたどり、当然ながらインクの需要も同じ道をたどっている。「これまでと同じことをしていては、いずれ消えてしまう」。そんな危機感が、原田氏を「自社にしか生み出せない付加価値」の追求へと駆り立ててきた。
得意先の課題と向き合いながら試行錯誤を重ねる中で、臭いを抑えた「におわなインキ」や画期的な水なしLED UVインクなど、独自の製品が誕生。大阪府の経営革新計画にも認定されるなど、付加価値追求の努力は着実に実を結んでいく。
そんな中、同社が特に力を注ぐのが環境保護の取り組みだ。もともと印刷業界では1990年代から大豆油などの植物由来原料を用いたインクの開発に力を入れており、環境負荷の軽減は業界全体の関心事でもある。都インキでも、自然由来のバイオマス原料を混合した独自のインクを開発。「サステナブルインク®」の名で商標登録し、同社を特徴づける商品のひとつとなっている。
そしてもうひとつ、環境負荷の軽減に加えて業界全体の課題解決にも光明を投じる商品が「サステナブルブラックインク®」だ。これは印刷会社で余ったインクを回収し、黒のインクとしてリサイクルしたもの。開発のきっかけはインクの廃棄に悩む得意先の声だ。※株式会社ダイトクコーポレーションと共同開発
印刷の需要は常に変動するため予測が難しく、印刷会社は仕入れたインクをすべて使い切れるとは限らない。このように、仕入れたものの使われずに保管されたままのインクは「不動インク」と呼ばれ、消費期限を過ぎて使えなくなると産業廃棄物として処理することになる。
印刷会社には廃棄コストがのしかかるうえ、廃棄処分の過程で大量のCO2が発生する。ここに着目した原田氏は、得意先の印刷会社から「不動インク」を安価で買い取り、それらを黒インクとして再生する技術を開発。「サステナブルブラックインク®」として商標登録するとともに、その製造に関して2件の特許も取得した。
廃インクを提供する印刷会社においては、これまで負担となっていた廃棄コストが軽減される。一方、この「サステナブルブラックインク®」を仕入れて印刷に利用する印刷会社も、CO2削減に貢献する印刷方法としてクライアントにアピールできる。実際、インクの廃棄を1t減らせば、2.17tのCO2削減につながるという。都インキでは、このインクを利用して印刷を行った企業には、その使用量に応じたCO2削減量の証明書を発行している。
これらの価値が徐々に認知され、「サステナブルブラックインク®」は公的機関の広報物から大手企業のプロモーションツールまで採用が広がりつつある。2024年9月にはグリーン購入ネットワークにも「サステナブルインク®」と併せて登録され、さらなる採用の拡大が期待されている。
縮小傾向にある市場の中で、創意工夫により独自の強みを持つ商品を作り続ける都インキ。しかし、原田氏の言葉からは依然として強い危機感が伝わってくる。
「原材料の価格高騰もあって、販路が広がってもなかなか利益にはつながりません。また、販路を広げるには印刷業界だけでなく、一般企業や消費者にも認知していただく必要があります」。
2022年にはInstagramのアカウントを開設し、自社製品の採用事例やインクに関する情報をわかりやすく発信している。
「御社の強みは?」という営業先での問いかけから始まった原田氏の挑戦。人にも地球にもやさしいインクを次々に生み出し、「印刷」に新しい価値を加えてきた。この間、2度の経営革新計画、事業継続力強化計画、健康経営、中小企業向けSBT、大阪府脱炭素宣言など数々の認証も取得し、さらなる成長への土台を着実に築いている。
「今後はサステナブルのインクを、印刷以外の用途にも事業を広げていきたい」。市場の縮小という逆境に立ち向かい、独自の付加価値を追求する都インキの挑戦は今後も続く。
(取材・文/福希楽喜)
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