歴史が作り上げた財産が承継を後押し
問屋の町・船場で、バッグ・財布・服飾雑貨の企画・卸などを行うツタハラ。創業は1944年。創業者の孫にあたる現社長の蔦原氏は、2016年に父である先代社長から経営を引き継いだ。
大学卒業後、銀行員として勤めていた蔦原氏。仕事で中小企業の経営者と接するうちに、「自分も経営者になりたい」という思いが膨らんだ。起業も考えたというが家業の継承を選び、2005年にツタハラに入社する。
自分なりに家業を見直して新たなビジネスプランを構築し、「成長させられる」という確信を得たうえでの決断だった。そして、それを支えたのが、戦後間もない頃から商売を続けてきた同社ならではの財産だ。
「当社には、仕入先という大きな財産がありました。新規参入者が新たに取引ルートを開拓するのは大変ですが、その苦労をすべて省いた状態からチャレンジできました。
それに、これは後になってわかったことですが、当社は仕入先からの信頼が非常にあつかった。その背景には、業界では当たり前だった手形払いや支払いの遅延、無理な返品など不透明な取引慣行を一切してこなかったことがあります。本当に、歴代の先輩たちに感謝しています」。
蔦原氏が会社を引き継ぐにあたって心がけたのは、社員との対話だ。蔦原氏が主導する変革は、既存社員にとってはときには戸惑いの元となる。そこで、変えていく理由や狙い、変えることで得られる将来像などを丁寧に説明するようにした。
そうして約10年。ネットショップ参入などの努力が実を結び、入社前に思い描いていたような会社に生まれ変わらせることができた。「では、次に何をする?」と考えたとき、すぐには答えが出なかった蔦原氏。
そこで、「あきんど塾」への参加を決めた。単発のセミナーではなく、1年間じっくりと腰を据え、仲間たちと切磋琢磨しながら経営を見つめ直せることが入塾の決め手だ。
「夢や目標を熱く語り合える仲間と出会えたことが一番の収穫です。しかもその仲間は全員が経営者。いまも連絡を取り合い、相談に乗ってもらったりしています」。
蔦原氏が65歳になるとき、同社は創業100周年を迎える。蔦原氏は「そのときが次の代にバトンを渡すタイミングかもしれない」と語る。そして、「バトンを渡すにふさわしい会社であり続けることが、今の私の目標です」とも。
「現在の当社の売り上げの3割強を占める財布類ですが、キャッシュレス化が進めば、もしかしたら財布は必要なくなるかもしれない。『だから商売がだめになる』ではなく、『それならば新たな商売を考える』という姿勢でいたい。商社である私たちの強みは、売れるものや売り方を考えることです。扱うモノは変わってもいいのです。その視点から世の中を見つめれば、100年超えへの道は必ず見つかると考えています」。
(取材・文/松本守永 写真/福永浩二)