販路開拓、改善提案担う「海外事業部」
大阪市中央区淡路町のオフィス街に、レトロなビルがある。テナントには、デザイン事務所やアートギャラリーなどクリエーティブな職種が多い。そこに菱沼貿易の本社がある。オフィス内はシンプルなインテリアに、打ち合わせ用の大きなテーブル、大画面のパソコンはリンゴのマークだ。出迎えた菱沼一郎社長は流行のイタリアンファッションでさっそう現れた。
菱沼氏は商社を経て40歳で独立。従業員は3人。主に取り扱うのは建材や家具、日用雑貨、食品。輸出では東南アジア向けの食品、酒類や家具に特に力を入れている。
訪問した際もクライアントと東南アジアへの販売戦略の打ち合わせ中。許可を得て同席すると…。
「まずは生産可能なロットを提案しないと向こうも購入のメドが立ちません。はっきりと数字で出しましょう!」。
おしゃれなオフィスやファッションには似つかわしくない菱沼氏の熱い言葉。それもそのはず、大学までラグビー部で活躍した体育会系だ。同社の戦略は明確だ。いわゆる商社としての輸出入業務だけでなく、現地市場や顧客の開拓、現地ニーズに沿った製品改善の提案まで、いわばクライアントの「海外事業部」としてフルセット支援を提供。世界中で営業活動を展開している。
同氏がクライアントの海外展開をサポートするうえで、最も重視するのが経営者や担当者の覚悟だ。「海外展開は一朝一夕には進みません。さまざまな課題や困難を乗り越えて継続する意志がないと、必ず途中で頓挫します。製品に魅力があり、海外でのニーズが見込めることが大前提ですが、強い覚悟で海外市場に臨もうとしているかどうかをクライアントに確認させてもらっています」と語る。
クールジャパンなどの流れもあり日本製品の海外でのニーズは高い。ただし一過性のブームに乗った売り方はしたくないと考える菱沼社長は、現地ニーズの情報をきめ細かく収集し継続的な販路チャンネルを確保するため、シンガポールに関連会社の設立を準備中だ。熱い思いを胸に秘めつつ、クールな戦略で世界に打って出る。小さな商社の大きな挑戦を垣間見た。
(大阪産業創造館 海外展開支援プロジェクト 北村勝則)
▲オフィスで打ち合わせ中の菱沼社長