「乗馬人口を増やしたい」を原動力に新たな価値づくりに挑み続ける

~25周年特別連載~
Bplatz その後の物語 vol.01
株式会社ワールドマーケット 代表取締役 荒木 剛氏
創刊25周年を迎えたBplatz press。本企画では、これまで誌面に登場いただいた企業の“その後”をあらためて訪ねる。掲載当時の挑戦は、その後どう発展し、どんな姿へと進化しているのか。企業の現在地から、これからの可能性を探る。
2006年、南港ATCのインキュベーションオフィスで誕生した株式会社ワールドマーケット。創業者の荒木氏は海外勤務の経験を活かし、個人輸出を支援するプラットフォーム運営や輸出入代行サービスを展開しており、2008年に本誌に登場した際は、海外に向けた大阪の魅力発信の大切さを訴えていた。

起業から2年後の荒木氏(右)
その翌年、同社は大きな転機を迎える。2009年5月に乗馬用品・馬具の通販サイト「JUDHPURS(ジョッパーズ)」をオープンし、国内では十分に整っていなかった“日本人向け乗馬用品市場”をつくる事業へと舵を切った。学生時代に乗馬を趣味としていた荒木氏が、実家で眠っていた乗馬ブーツをネットオークションに出品したところ、即座に売れたのがきっかけだった。「乗馬用品には隠れたニーズがあるかもしれない」。そう感じた荒木氏は、中国で20万円分のブーツを仕入れ、簡易な通販サイトを開設して販売したところ、短期間で完売。事業としての可能性を実感し、段階的に業務を拡大していった。当時は乗馬アイテムのネット通販は競合が少なく、商品の幅を広げるごとに売上げが伸びていったという。

しかし、販売が増えるにつれて、「日本人の体型に合った商品が欲しい」という声が舞い込むようになる。当時扱っていたのはヨーロッパの馬具ブランドの商品で、ブーツやウェアなどは欧米人の体型に合わせたものが大半だったからだ。そこで荒木氏は次の展開としてオリジナルブランドの開発に乗り出すが、ここに大きな壁が立ちはだかる。「日本人に合わせて丈を短くすればいい、という単純なものではなく、体型に合わせてデザインし直す必要がありました。サンプル制作と改良を重ね、馬術選手による試着も実施し、完成までに約2年を費やしていました」と開発時の苦労を語る。

代表取締役 荒木 剛氏
長いトンネルから抜け出す契機となったのは、一人のデザイナーとの出会いだった。ある日、同社に一通のメールが届く。送り主は自身も趣味として乗馬を楽しむというアパレルデザイナーで、メールの内容は「乗馬用にデザインしたショーツの販売に協力してほしい」というものだった。商品開発に四苦八苦していた同社にとって大きな出会いで、自社商品の開発でも協力を仰ぎ、一気に前進する。2013年には「おおさか地域創造ファンド」に採択され、2014年5月に「EQULIBERTA(エクリベルタ)」を立ち上げた。

翌年には軌道に乗り、売上げも商品の幅も拡大。「主要なアイテムを幅広く取りそろえている」という商品ラインナップに加え、独自の返品対応が差別化につながっているという。乗馬用品は体へのフィット感がとても重要だ。例えばブーツは足サイズだけでなく筒の高さ、ふくらはぎ周りなど、細かくサイズ展開が分かれている。フィットしないものを履くと馬を操るのが難しくなるが、通販で最適なサイズを一度で選ぶことは難しい。そこで、「送料無料・返品無料」という形で、納得できるまで交換できる仕組みを整えた。このサービスは「おうちで試着」と名付けられ、競合との差別化につながる取り組みになった。今では売上げの半分以上を自社ブランド品が占め、製薬会社と馬のおやつを共同開発するなどの新たな取り組みも生まれている。

EQULIBERTA 商品イメージ
その後も、乗馬情報を発信するメディア「EQUIA(エクイア)」を立ち上げるなど、乗馬市場の活性化に向けてさまざまな活動を展開。2023年には新たな取り組みとして乗馬をテーマにしたイベント「OSAKAホースフェア」を開催した。

OSAKAホースフェアの様子
もともと東京や名古屋でポップアップショップを定期的に開いていたが、来場者が増えるにつれて会場規模の拡大も迫られるようになった。「せっかく広い会場を押さえるなら、物販だけでなくセミナーなどのコンテンツも追加しようと考えるうちに、イベント形式で行うことになりました」と開催の経緯を語る。このイベントも徐々に規模が拡大し、第3回からは創業の地である南港ATCでの開催となった。「どうせなら本物の馬を会場に呼びたい」という荒木氏の思いにATC側も全面的に協力。乗馬体験や馬とのふれあいコーナーはフェアの大きな目玉となった。


OSAKAホースフェアの様子
次々と新たな挑戦を続ける荒木氏。その原動力となっているのは「乗馬人口を増やしたい」という思いだ。フェアをきっかけに、乗馬に憧れや魅力を感じる人を一人でも増やしたい。その考えから今後力を入れていこうとしているのが、日常使いできるアパレル商品の展開だ。「乗馬用の衣類は機能性に優れているので、普段着としても十分に使えます。服をきっかけに私たちのブランドを知っていただき、そこから乗馬に興味を持つ人が増えれば嬉しいですね」と展望を語る。

創業時から思い切って事業を転換し、乗馬市場を切り開いてきた荒木氏。ブレることなく貫いてきたのは「お客さまに喜んでもらえる商売でなければ、やる意味がない」という姿勢だ。「お客さまに心から乗馬を楽しんでいただくには、やはり自分に一番合う商品を見つけてもらうことが大切です。『買って良かった』と思っていただくために、私たちがやるべきことは何か。それを常に追求しています」と語る。日本人の体型やニーズに合わせた自社商品も、無料の返品・交換サービスも、すべてはこの姿勢から生まれたものだ。

自分に対して何と声をかけるか、最後に聞いてみた。「最初の事業がそのまま成功するとは限りません、失敗しても再び挑戦できるようなプランとマインドを持っておいてほしい。キャッシュが減っていくのを見ると不安が募ると思いますが、“ダメだったら別のことをすればいい”と思えるような心の余裕は持っておいた方がいいですね」。事業を変えても、顧客視点は変えない。その姿勢こそが、ワールドマーケットの現在を支えている。

(取材・文/福希楽喜 写真/福永浩二)
※掲載写真は、編集部にて撮影したもの以外に、取材先企業からご提供いただいた写真も含まれています。









