―次の“世界”へ― イタリアから日本へ 祖父の思いと夢を継いだ3代目

「まさか日本で働くことになるなんて。まして社長になるなんて」。そんな自分の状況にいちばん驚いているのは、株式会社OEG(オーイージー)の代表取締役 アンセルミ氏だ。イタリアで生まれ育ち6年前に20歳で来日、祖父が創業した会社を継いで3代目として経営に当たっている。
同社は「PUSHKUN(プッシュクン)」というサニタリー配管用機器・システムを開発したメーカーだ。1986年の創業以来、食品や化粧品、医薬品業界などの製造ラインに向けて製品を提供してきた。祖父が特許を取得したこともあり、世界的にも同様の製品を手掛ける企業は少ないという。祖父の入院により、会社の存続に危機を感じた伯母が一時的に継いだ後、本格的な後継者としてアンセルミ氏に白羽の矢が立った。

代表取締役 アンセルミ 百合子氏
イタリア語を母語とするアンセルミ氏にとって、まず壁となったのが日本語の習得。「イタリアでは、母が大阪弁で話しかけ、私はそれにイタリア語で返すという独特な会話をしていました」と振り返る。その経験もあってか、今では日本語のコミュニケーションもスムーズだ。「大阪弁と標準語は違うので、戸惑うことはありますけど」と笑う。

大阪産業創造館の「なにわあきんど塾」では、日本語での講義が理解できるか不安を感じ、講義を録音して経営の基礎を学んだ。そこで得た知識を活かし、「PUSHKUN」のテスト機器をつくり、顧客に貸し出す取り組みを開始。これにより、口頭の説明だけでは伝えきれなかった製品の良さが伝わるようになり、受注率が上がっている。また、会社としては20年ぶりに大型展示会にも出展し、製品PRにも力を入れた。その成果もあり、これまで取引のなかった電池メーカーにも販路を広げることができたという。
近年では海外からの問い合わせも増え、英語対応が可能なアンセルミ氏が担っている。「実は、海外への販売は祖父の夢でもあったんです。ただ、祖父は英語ができなかったので実現しませんでした」。その夢を引き継ぎ、今後は海外にも本格的に進出したいと展望を描く。

祖父から受け継いだ価値観は、「お客さまを大切にすること」と「製品にプライドを持つこと」。製品にトラブルが起きた際、自社に非があれば誠実に謝り、そうでない時でも丁寧な説明によって顧客に理解を求める。「これまでは製品がうまく稼働しなければすぐに交換していましたが、今はまず問題の所在を十分に調べて対応します。それが結果的に製品のイメージを高めることにつながると考えています」。製品を子どものように大事にしていた祖父の姿勢を、アンセルミ氏も受け継いでいる。

(取材・文/荒木さと子 写真/福永浩二)









