商品開発/新事業

《講演録》冷凍自動販売機『ど冷えもん』開発者が語る 新市場開拓のヒント

2025.11.17

2025年6月19日(木)開催
冷凍自販機『ど冷えもん』開発者が語る 新市場開拓のヒント

講師 大木 哲秀氏
(サンデン・リテールシステム株式会社 常務執行役員、R&D本部・IT本部 本部長)

ここ数年で「冷凍食品を扱う自動販売機」を見かける機会が増えていないだろうか。その自動販売機こそ、サンデン・リテールシステム株式会社が開発した「ど冷えもん」だ。開発者の大木哲秀氏は「楽しくなければ仕事じゃない」をモットーに、自動販売機システムを応用して、在庫管理システムやキャッシュレス決済専用の卓上自動販売機などを開発。これまで培ってきた技術や経験に、柔軟な発想を組み合わせながら、新市場を切り開いている。
今回のトークライブでは、大木氏に「ど冷えもん」の開発の裏側をはじめ、新商品の企画や新市場開発における考え方、異業種への展開事例についてお話しいただいた。

■ 自動販売機で缶コーヒーが売れたワケ

20年ほど前、自動販売機で一番売れていた飲料を知っていますか? 答えは缶コーヒーです。缶コーヒーがそれほどまでに売れた理由は、その自販機の横には必ずと言っていいほどタバコの自動販売機があったからです。これは日本独特の文化で、タバコを吸いながら缶コーヒーを飲むと、なぜか両方がおいしく感じるらしいのです。そこで一服して休憩するのが、当時は一般的でした。

ところがその後、缶コーヒーの売上げは急速に落ちていきます。2008年、タバコ購入時に年齢確認を行うためのタバコ用成人識別ICカードが導入されたことで、自動販売機でタバコを買う人が減ります。その代わりに人々はコンビニへ行くようになり、タバコと一緒に缶コーヒーも買う。こうして当時のコンビニはタバコ用成人識別ICカードのおかげで“タバコ特需”が起こり、缶コーヒーも一緒に売れるようになりました。しかしその約2年後には、コンビニ各社でカップコーヒーが売られるようになり、市場は大きく変化していったのです。

 

■ 次世代自販機を検討する中で

こうした流れの中で、自動販売機に関連するビジネスを手掛ける私たちも、さまざまな挑戦をしてきました。私は1993年にエンジニアとして入社し、自動販売機の開発部に配属されました。飲料自販機の評価や機能の開発を担当する中で、1996年10月に「オートストアプロジェクト」に参画し、ある大手コンビニストアと無人コンビニの開発に取り組むことになりました。そこには商品のサンプルが並んでいて、画面上のテンキーを押すと自販機から商品が出てくるという仕組みでした。しかし、2000年ごろにプロジェクトは頓挫してしまいました。当時はインターネットが普及したばかりで、まだ液晶画面も普及していない時代。技術としては画期的でしたが、当時の人々の生活や文化に受け入れられるには早すぎました。

ただ、私たちの無人コンビニは、現在のAIカメラとセンサーを活用したウォークスルー型の無人決済店舗に近いアイデアだったと思います。最近は、無人店舗がさまざまなかたちで展開されています。形は違いますがモバイルオーダーシステムもその一つでしょう。これらをBOPIS(ボピス:Buy Online, Pick Up In Store=オンラインで注文し、店舗で受け取る)といい、このシステムには“ロッカー”が必要になってきます。私たちもそのロッカーの一部に自販機を取り込む活動もしています。

2002年には、ある大手配送業者のドライバー向けに軍手の自販機を開発しました。当時、ドライバーは自分で使う軍手を自費で買う必要があり、夜間に買える場所がないという課題がありました。そこで、24時間購入できる自販機を開発・導入しました。

2006年には、某大手コンビニストアの店舗内にDVDレンタル機を設置しました。最新作のDVDがクレジットカードでレンタル・返却できる画期的なシステムでしたが、テスト運用の結果撤退しました。当時、すでにストリーミングという言葉が出始めており、時代はディスクからデータへと移り変わる兆しがあったためです。

その後、開発本部に異動して企画したのが、透過型液晶を搭載した自販機です。これは某大手半導体メーカーのソリューションの一部として採択されましたが、市場には出ませんでした。しかしさまざまな次世代型の自販機を検討する中で、それまでにないビジネスモデルやソリューションの形を見つけることができました。

 

■ 冷凍自販機「ど冷えもん」の誕生

冷凍自動販売機「ど冷えもん」の企画は、2017年頃に始まりました。当時、冷凍食品はコンビニで毎年2桁成長を続けており、市場の拡大が見込まれていました。一方で「冷凍食品の自販機は成功しない」ともいわれていました。その最大の理由は、商品の補充のための冷凍車が必要であり、物流コストが非常に高くなるためでした。

それでも「冷凍食品はおいしい」という感覚が、少しずつ消費行動に変化を起こしていました。当時、ある大手コンビニエンスストアで売っていた冷凍チャーハンは価格が安くておいしく、オフィスで食べる人が増えていたのです。そうしたオフィスやランチの需要を狙い、大小さまざまなパッケージを扱う“なんでも売れる冷凍自販機”というコンセプトで開発を進めました。

そして、発売を予定していた2020年には、新型コロナウイルス感染症の蔓延によるロックダウンがありました。これにより、営業時間短縮などで厳しい状況にあった外食産業が、「ど冷えもん」を救世主として活用し始めてくれたのです。急速冷凍庫の普及や食品衛生法の緩和も追い風となり、ラーメン店などが自店のスープや麺を冷凍食品にして、自販機で販売するモデルが確立されました。ほかにも、金沢の近江町市場では刺身やステーキといった高額商品まで「ど冷えもん」で販売されるようになりました。

従来の飲料自販機は、いつでもどこでも同じものが買える「安心感」や「便利さ」を提供していました。しかし「ど冷えもん」は、「そこにしか売っていないものを買いに行く」という全く異なる購買動機を生み出したのです。これは、単にモノを買うのではなく、その場所でしか体験できない「コト」を買うという「コト消費」のツールとして「ど冷えもん」が使われるようになったことを意味しています。つまり、私たちはこの変化を通じて、「ど冷えもん」が“体験を売る自販機”へと進化していることに気づいたのです。

そこでこうした動きをサポートしようと、サンデン・リテールシステムでは「ど冷えもんGO」というアプリを開発し、ユーザーが近くの「ど冷えもん」や売られている商品を検索できるようにもしています。

冷凍自動販売機「ど冷えもん」


 

■ 変化に対応する企画と未来への挑戦

「ど冷えもん」を世に送り出すだけでなく、その製品を活用した社会課題解決のビジネスモデルを企画し、実行するという活動も行っています。

その一つが、NTT Landscapeとの共同プロジェクトです。赤字に陥っている公営キャンプ場のDX(デジタルトランスフォーメーション)を促進することを目的としています。具体的には、トレーラーハウスに自販機を搭載して無人の売店としたり、バーベキューの食材を自販機のロッカーで受け渡したりする。そうしたクラウドサービスによるソリューションに取り組んでいます。

二つ目は、再生可能エネルギーの活用です。現在、太陽光発電などで作られた電気は電力会社が買い取ってくれるのですが、実は消費地へ送電することが難しいという課題があります。東京電力はこの余剰電力を有効活用するために、“電気を使う場所”を作りたいと考えました。そこで、私たちは単に電気を消費する場所ではなく、人々が集まる“憩いの場”を創出し、そこに自販機を設置することで電気を消費するモデルを提案しました。これは、地域活性化、つまり地方創生にもつながるという双方の思いが一致した取り組みだと考えています。

三つ目は、長寿社会のソリューションです。日本の社会保障費、特に医療費は増大する一方で、それを支える労働人口は減少しています。国もさまざまな対策を講じていますが、私たちが考える一番の解決策は「お年寄りが元気に生活できること」です。

現在、平均寿命と健康寿命の差は約10年といわれています。平均寿命が83~84歳だとしても、健康寿命は70歳ほどになります。この“健康寿命”を延ばすために、運動・食事・交流の3点をセットで提案する場所づくりを、群馬大学と共同で構想しました。具体的には、運動能力を高めるゲームや、カラオケによる交流促進、健康に配慮した食事の提供などを通じて、高齢者が楽しく元気に過ごせる空間をつくる取り組みです。こうした活動を通じて、高齢者が健康でいきいきと暮らし、さらには引き続き働ける社会を実現したいと考えています。

キャッシュレス決済専用卓上型自動販売機「卓っくん」


 

■ トレーラーハウス:防災と平時の有効活用

もう一つの社会課題として、私たちは自然災害が多発する日本における「防災」に着目しました。特に2024年の能登半島地震では、トレーラーハウスが迅速に被災地に届けられ、非常に活躍しました。通常の仮設住宅を建設するには、資材の調達や大工の確保に数カ月かかる場合がありますが、トレーラーハウスはすぐに運搬・設置が可能です。そのため、政府も災害レジリエンスの向上に貢献できる仕組みとして注目しています。

こうした背景から、国は移動型車両を登録する制度を設け、有事の際にトレーラーハウスを被災地に向かわせるという政策を推進しています。また、自治体に対しては防災備蓄品としてトレーラーハウスを保有することが推奨されています。

しかし、ここで一つの問題が浮かぶと思います。「普段は使わないトレーラーハウスを備蓄して、どうするのか?」ということです。そこで私たちが提案しているのが“平時のソリューション”です。災害時は避難所として活躍するトレーラーハウスを、平時は高齢者の憩いの場や、地元活性化の拠点として活用するのです。私たち民間企業としては、福祉や教育、観光といった自治体の抱える問題解決につながるものを提案しています。

最後に、なぜわれわれは自治体に寄り添うのか。チャネル(顧客と企業を結びつけ、商品やサービスを届けるための経路や手段)をつくるのは、コンビニやスーパー、飲料メーカーといった私たちのお客さまであって、私たち自身では決してチャネルをつくれません。新しいチャネルの考え方を自治体に求め、そこに私たちが先に入って、その後はさまざまなリテーラーに展開をお任せする、そうした考えのもと、さまざまな企画を進めてきました。

私たちは世の中に感動を生み出す、つまり心を揺さぶる体験をつくるために「R&D(Research and Development=研究開発)」に常に取り組んでいます。私は、新しい情報を集め、未来を想像し、未知の世界を見せるという気持ちで、日々行動しています。こうした中に新しい企画やアイデアが生まれてくるのだと思います。

トレーラーハウス


(文/安藤智郎)

 

○ 質疑応答

成功のカギは「ロケーションと商品のかけ合わせ」

Q. 成功する事業者と失敗する事業者の違いは?
この違いは、ずばり「ロケーションと商品のかけ合わせ」にあります。成功事例の一つとして、九州の住宅街にある魚屋さんの前に置かれた「ど冷えもん」があります。ここで売られていたのは、エビフライでした。なぜこれが大ヒットしたかというと、SNSで話題になり、わざわざ遠くから買いに来る人が増えたからです。

つまり、成功するビジネスは「アトラクション」や「アミューズメント」になっていることが多いのです。日常的に食べるものを、日常的な場所で売っていても、なかなか成功はしません。レアな商品やキャラクターの活用や、ゲームの延長でキャラクターのソフトクリームを作って販売するといったアトラクション的な要素を持たせることで、単なる自動販売機ではなくなります。毎日食べる唐揚げ弁当が普通の通りに置かれているだけではおそらく売れない、と分析しています。

 
「言い続けること、やり続けること」

Q. 新しい価値を生み出すには?
社内で新しいアイデアを提案する際、「皆が分かること」をやっていても、それは“新しいこと”にはなりません。多くの人が納得するようなアイデアは、すでに多くの人が考えている可能性が高いからです。私は若い頃から、「何がやりたいのかわからない」と言われていたのですが、私は「皆さんがわかるようなことをやっていたら、新しいことはできません」と返してきました。

新しいことを実現するには、ある程度の実績を作るところまで持っていくのが重要だと考えています。たとえば、あるプロジェクトでは、私だけでなく、企業や大学といったパートナーを巻き込むことで、社内にも「自分たちだけじゃない」という安心感を持ってもらうことができました。また、本当に新しいことは、一度言っただけでは誰も信じてくれません。だからこそ、否定されても「言い続けること」「やり続けること」が重要だと考えています。

 
大木 哲秀氏(サンデン・リテールシステム株式会社 常務執行役員、R&D本部・IT本部 本部長)
1993年群馬大学を卒業後、サンデン株式会社(当時)に入社。自動販売機の開発に携わり、1997年に無人コンビニに挑戦。2002年より国内外の商品企画を担当し、2018年より現職となり新商品・新事業の企画・開発を牽引する。

サンデン・リテールシステム株式会社

常務執行役員、R&D本部・IT本部 本部長

大木 哲秀氏

https://www.sanden-rs.com

事業内容/店舗用ショーケースの製造販売、飲料・食品自動販売機の製造販売、医療機器・用具の製造販売、電気通信機および同部品の製造販売、建築工事および管工事の請負、設計および監理、貨物利用運送事業および倉庫業、古物営業、通関業