万人受けせんでええ、自分が信じたものをつくるだけ
色をつけた部分を意図的に縮ませることで柄に合わせた凹凸を生み出す技術「革友禅」。滑らかな皮革の手触りとカラフルな図柄の個性豊かな凹凸は、見る角度ごとに違った表情を見せる。
革に色をつけることは珍しくないが、革を蒸しあげ、でこぼこの風合いを出すのは世界で唯一、タケグチだけが持つ技術だ。
日本の染色技法「友禅染め」は正絹(しょうけん)に染めるものと定義されているため「革友禅」と命名。
幾何学模様や抽象画風の色鮮やかな革友禅が誕生するきっかけは、30年前に生まれた失敗作だった。
創業108年目を迎えるタケグチの前身は袋物や財布、鞄などのメーカー。
原料の革を仕入れて染元に依頼し、あがってきたものを革小物へと加工していたが、染元が病に倒れたことから諸道具を全て譲り受け竹口氏自らが染色することになった。
今まで見聞きしてきたことを思い出しながら試行錯誤を繰り返していたある日、でこぼこに縮んだまま無造作に置かれた失敗作を見たあるテキスタイルデザイナーが「これは面白い!」と反応、もう一度制作してみることに。
だが、なかなか思い通りには仕上がらず、染料やノリの配合を何通りも試すこと約3年、ようやく再現できるようになったという。
染めの工程はもちろん、絵柄の考案も自社で行う。閃いたアイデアを紙に書き留め、デザインを型切り。四角い幾何学模様は御堂筋の歩道から着想を得たもので、洗面所で顔を洗いながら見た水の跡をモチーフにした柄もある。
「ネタは身近にいくらでもある。それをカタチにするか、しないか」。
柄ごとに製作した専用の版を用い、シルクスクリーンの要領で一枚一枚染めていく。一色乗せたら一日乾かして、翌日もう一色乗せたら、また一日乾かす。
色数の分だけ日数をかけて乾かした後は、蒸しあげ、洗いをかける。季節や気温、湿度に応じ、すべてに微調整が必要だ。
これらの工程を経ることで、水に濡れても色落ちせず、軽くて柔らかな「布感覚の革」へと変化する。
革の種類や大きさ、部位、柄や色の数によって仕上がりが変わるため、100枚あったら100通り。工業生産には向いていないが、それでいいという。
「流行を追って、万人受けするものを作るより、ひとひねりあるものをつくりたい。枯れる度に新しいものに活け替える切り花ではなく、じっくりと耕し、水やりをして育てていく。そんなモノづくりをしていきたいんです」。
独特の風合いに惹かれ、国内外のファッションブランド、メーカーからの引き合いも多い。従来の革製品では難しかった分野も含め、さまざまな作り手とともに一点モノを送り出していく。
(取材・文/北浦あかね 写真/福永浩二)