頼る力で呼び寄せた人脈で営業いらず
売買仲介、賃貸仲介、不動産管理、土地の有効活用など土地建物にかかわる依頼者からの相談事は多岐にわたるが、サービスを提供する不動産業者の多くはいずれかの事業に特化した縦割りの構造になっているのが実態だ。
井上氏はこのギャップに斬り込み、不動産にかかわるあらゆる相談に対し、解決のための最良の設計図を提示し、実作業にも当たっている。
社会人になり8年間勤めた不動産会社がたまたま売買仲介、賃貸仲介、不動産管理を手掛けていたことが井上氏にとっての強みを作る土台となった。
その後、不動産売買の会社を経て入社した経営コンサルティング会社の社長から「不動産部門を別会社にするので社長を任せたい」と打診された。「雇われ社長になるよりは独立したい」と思い、会社を辞めた。
とはいえ貯えもなくローンの支払いも残っていた。「家族を養うためにも翌月からなんとしてでも稼がないといけない」状況だったため、当初は「仕事欲しさに価格を落としてどんな仕事でも取っていた」。だが徒労の日々が続く。
ある時、複雑に絡んだ土地の名義人を依頼者1人の名義にまとめあげる仕事に携わった。
その依頼者から「調整や交渉ごとには日当を支払う。それとは別に成功報酬を歩合で渡す」と言ってもらった。名義をまとめたことで土地の売価が2倍になり、日当と別に2割の成功報酬が得られることになった。
この出来事をきっかけに日当と成功報酬に分ける価格体系へと見直した。「価格を上げても離れていくお客さんはいなかった」ことで格段に収益が向上した。
役立ったのは人脈。「僕自身は広く浅く広くやってきたので、深い知識、ノウハウについては、それを知っている人にすぐに電話で相談してきた」。
仕事が舞い込んでくるとそのつながりで自分にできない仕事は任せてきた。そんな積み重ねから、今では「何かあれば井上氏に」という関係を構築。現在は営業をせずとも紹介とリピーターだけで仕事が入ってくるという。
このほど新たに始めたのが不動産スクール事業だ。不動産賃貸、管理、売買などについて6回コースで知識を習得できるようにしたコースで、現在不動産ビジネスにかかわる6人が受講中。その狙いは「人材発掘」だという。
「優秀な人と業務提携をし、そのネットワークで協業しながらビジネスを広げていきたい」。井上氏の事業の真髄はまさに人脈ビジネスだ。
(取材・文/山口裕史)