産経関西/産創館広場

精神疲労、ストレス計測 早期にセルフケア

2013.04.29

2009年の厚生労働省調査によると、ここ10年のうちに鬱病・躁鬱病の総患者は約2倍に増加しており、2008年に100万人を超えている。また、自殺や鬱病による社会的損失の推計額は、2・7兆円(10年の厚生労働省調査)と推計されており、昨年は国会でもメンタルヘルス対策の充実・強化が審議されるなど、大きな社会課題となっている。

 そんな現代社会の問題に独自の技術で立ち向かうのが、株式会社疲労科学研究所(大阪市淀川区)である。これまで企業・団体が行ってきた従業員・職員に対するストレス検診は、問診によるものがほとんどだったため、受診者が曖昧な回答をしたり、実態と異なる回答をしたりすると、適切な診断結果が出せないという問題があり、客観的な診断が求められていた。メンタルヘルスの異常(不安障害や鬱状態など)では、交感神経系の緊張が高まり、副交感神経系の活動が低下することが報告されており、自律神経系の解析が極めて重要な検査の一つである。自律神経系の解析には心電図のRR間隔の解析や、脈波、速度脈波、加速度脈波を用いた心拍変動解析が有効であることがよく知られており、疲労科学研究所では心電波と脈波を同時に測定できる高精度センサーを村田製作所と共同開発した。

 またこの高精度センサーを、日立システムズが提供するデータセンターによるクラウドサービスを使うことで、計測からデータ解析まで瞬時に行うことができる「疲労・ストレス検診システム」を構築。疲労やストレスの度合いが相当高いと思われる東日本大震災の被災地の住民や自治体職員などの計測を行ったところ、検査を求める人の行列が絶えなかった。結果は「要注意」が出る割合が高かった。

 被災地では自分でも気づかないうちに過労や自殺衝動といった重大な危機に近づいている場合がある。疲労・ストレスが深刻化する前に客観的に状態を確認することで、メンタルリスクの予防をはじめ、早期発見に対する適切なケアや回復状況の確認が可能となる。このシステムが心の復興の一助となることを願ってやまない。

 (大阪産業創造館 新産業創造推進室リーダー 武坂寿夫)

疲労科学
▲心電波と脈波を同時に測定できる高性能センサー。村田製作所との共同開発で高性能・小型化・低価格を実現した。

株式会社疲労科学研究所

http://www.fatigue.co.jp