どこも受けない仕事 大歓迎
「ここに断られたら、受けてくれるところはない」。そう評されるのは、単に加工技術が高いからではない。見積もり依頼から2時間以内に返答し、小ロットでも親身に対応するという、製造業では珍しい業務形態にある。大阪府八尾市でアクリル加工業を営む共栄化学工業だ。
取引先は5000件にのぼるが、半数は企業ではなく個人。必然的に、受注のたびに、設計が必要な個別品が多くなる。加工内容も多岐にわたるため、効率性は高くない。しかし稲垣圭悟社長は問題視していない。「毎日同じものを作り続けるなんてつまらない。挑戦した分だけスキルが上がり、それが次の仕事につながるから」というのが理由だ。
そんな同社だが、創業時からこの方針だったわけではない。1社に売り上げの8割を依存していた時期もあった。だが、不況と共に根幹が崩れる。取引先の倒産に伴う大幅な売り上げダウンとリストラ。廃業を考えるほど厳しい状況下で、事業戦略を徹底的に考え直した。過去と同じでは生き残れない。商圏を拡大し、どんな依頼にも対応できる機動性を確保し、利益獲得のリスクを分散すること。それらを実現するためにインターネットによる販路拡大を決断した。
「圧倒的に差別化できることは何か」を考え、見積もり時間を最大限に短縮。ホームページでは実績を丁寧に解説するとともに、「どんな依頼も大歓迎」という姿勢をアピールした。「言われたまま作るのではなく、新しい価値を能動的に提供できる企業になろう」という方針転換が奏功し、厳しい経営環境下でも業績を伸ばしていった。
盤石な基盤を整えた同社が、次に目指すのは「楽しい仕事」だ。たとえばスポーツ好きの稲垣社長は、プロスノーボード協会にスノーボード型のトロフィーを提案し、受注につなげる。「好き」を「仕事」に昇華させた社長に触発され、今度はお祭り好きの若手社員がオリジナル木札を考案し、人気商品に育て上げた。
そうした評判が広がり、最近では「難しい」「過去にない」「オリジナル」がキーワードの依頼が増えている。普通なら敬遠されそうな依頼も楽しんで引き受ける。どこかで変わったアクリル製品を見かけたら、それは同社によるものかもしれない。
(大阪産業創造館 プランナー 池田奈帆美)
▲微妙な曲げ加工は職人同士の連携が重要だ
共栄化学工業株式会社