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唯一無二の作品ばかりやけど門外不出やわ

2020.04.01

「印鑑はお客様に合わせて作る一品モノ。秘匿性が求められる性質上、作品集のように発表することはできません。縁の下の力持ちですわ」と、手彫り一筋でハンコ(印章)を作り続ける三田村氏は、笑顔で語る。

日本の商慣習に根付き、広く使われている印章。中でも“実印”といった公的に使用される『印鑑』は複製されないだけではなく、工芸的な“美しさ”も要求される難しい世界だ。

「篆書体の造詣」×「デザイン力」で仕上がる印章

三田村氏は、姿の美しい印章のブランド『捺捺捺(ななな)』を展開。紀元前の中国で使われていた篆書体(てんしょたい)を用いて印章を作るが、大切なのは創作性。

「フォントにとらわれず、間を大切にした美しさを追求してデザインを行ない、手彫りで仕上げます」。

デザインには文字のバランスや、篆書体といった“篆源”に対する造詣が不可欠。それを再現する手彫りにも、高度な技術が求められる。

修行時代を共に過ごした愛着ある印刀

飽くなき探究心によって美しい印章を追求する三田村氏の腕前は、大阪府や国から「なにわの名工」「現代の名工」として表彰され、平成29年には「黄綬褒章」を受賞。業界内外でその力が認められている。

「デザインはひらめきですが、彫りは5年ほどかけてひたすら鍛錬です。彫りの技術を磨く毎に“どのようにすれば、美しい印影に仕上がるか?”というデザインの感覚も研ぎ澄まされます」。

代表の三田村 煕菴(きあん)氏

今では「名前を聞くと、どんなデザインが美しいかを考えてしまう」という職人気質の三田村氏だが、元々は普通の会社員。妻の父の影響で印章に関わった時「小宇宙がある!」と感銘を受け、飛び込んだ。

先輩の下彫り職人に習い、専門的な技術を習得。自分の力を測るため印章の専門誌に応募し、高得点を獲った。最初は技術を磨くことだけに没頭したが、転機が訪れる。

「独立したことで、“技術を活かし、いかに商売に繋げるか?”を考えて実行するようになりました」。例えば落款印(らっかんいん)を一文字のゴム印としてリリース、好評を博した。

また、東京で開催されるコミックマーケットにも顔を出し、同人サークル用の印章の依頼を受けたことも。

「その頃に知り合ったクリエイターたちが、今ではプロの漫画家や、大手自動車会社のプロダクトデザイナー、著明なグラフィックデザイナーとして活躍しています。今でも依頼がありますよ」。

30年以上深めた技術をさらに進化させる

現在、業界にはデジタル化の波が押し寄せている。

「技術を継承するために新しいビジネスにも目を向けています。先日、広報を担当する妻の発案で印章を使ったTシャツをカタチにしました」と力強く語る三田村氏。

“ホンマモンの技術”を武器に、夫婦一丸となって三田村印章店は未来に挑む。

製作は三田村氏、事務や広報は妻の恭子氏が担当

(取材・文/仲西俊光 写真/福永浩二)

三田村印章店

代表

三田村 煕菴(きあん)氏

https://mitamura-inshouten.com

事業内容/手彫り印鑑専門店