≪講演録≫1日4000人が来るお店「パティシエ エス コヤマ」の魅力に学ぶ
≪講演録≫2016年8月27日(土)開催 起業 STEP UPフェスタ基調講演
「心の利便性」とは? ~1日4000人が来るお店・「パティシエ エス コヤマ」の魅力に学ぶ~
パティシエ エス コヤマ オーナーシェフ 小山 進氏
三田市にある「パティシエ エス コヤマ」は、1500坪の広さを誇るまるでお菓子のテーマパークのような空間。敷地内には、生ケーキ・焼菓子専門店やブーランジュリー、チョコレート専門店、子どもしか入れないお菓子屋さんなど7ブランドが点在し、1日約4000人が来店する。
国際的なチョコレートのコンクールで数多くの賞を受賞するなど、世界が今最も注目するパティシエ・ショコラティエの一人である小山氏が、起業家として大切にしている考え方について語った。
神戸の洋菓子店から独立。全国行脚のコンサルティング業へ
16年間お世話になった「スイス菓子 ハイジ」を辞めて起業した理由は、長男の病気でした。当時の給料では、治療代が払えなかった。それまでは、独立願望ゼロで、起業など考えてみたこともなかったです。ケーキづくりから店舗管理の統括まで任せてくださった社長にとって、僕は息子のような存在。「こいつに頼めば何かやってくれる」と信頼してくださっていたのだと思います。
「ハイジ」で身に付いたさまざまな物事の中で一番に挙げるとしたら、「人に当てにされる」ということ。結果を出せば、また当てにされる。それを繰り返していくことが、お客様やスタッフとの関わりにとって大事なことだと学びました。
1999年末に退職して、商品開発や人材育成、店舗活性化のコンサルタントを行って世の中の役に立ちたいと言ったら、約15社のクライアントが手を挙げてくれました。3年半の間コンサルティングの仕事に携わり、技術指導のために全国行脚をしました。
そろそろ自分の店を持ちたいと思ったのは、教える事業を続けるためには本拠地がないと説得力がないと思ったから。僕をつき動かすのは常に、「このままではダメになるんじゃないか」という不安感です。
クリエイティブであるために必要な、心と身体のバランス
僕の起業における特長は、「自分がやりたいことをやっているのではない」ということです。だからといって、嫌なことを渋々やっているわけでもない。簡単に言うと、「やらなくてはいけないこと」を嗅ぎ分けて、それを面白く切り抜き、子どもの頃に遊びから身につけた感覚や、19才でケーキ屋になってから培った技術力など、さまざまな力を合わせて表現するんです。それはお菓子だけじゃなく、空間・言葉・色など表現のカタチはさまざま。同業者からよりも、料理やアート、音楽、自然などから影響を受けることが多いですね。
僕は、自分のなかのクリエイティビティが歳とともに衰えるんじゃなく、その年齢に見合った感覚でものづくりができるように、心と身体をバランスよく使いこなす練習をしています。そのために、まず必要なのは、運動。そして、物事をじっくり考えたり、決断できる一人きりの時間です。
ジョギングをしながら葉っぱのうえのカマキリや、可憐なコスモスに出合う。自分がいいな、スゴイなと思って切り抜いたものを、どうしたら他の方に伝え切れるかを考えることに、多くの時間を費やすんです。それが、お菓子やチョコレートづくりの創造につながってます。
「売りたい」より、自分の思考と世の中のマッチングを考える
2003年の「パティシエ エス コヤマ」オープン1週間前。業界の先輩方を前に、「お菓子だけで勝負する自信がない」と言いました。それは、「どれだけおいしいお菓子をつくれたとしても、それだけでお客様を満足させられる時代じゃない」という意味です。百貨店のケーキ売場のショーケースに生ケーキがずらっと並ぶ光景は、2〜3年の間になくなると思っていました。街中でお土産だからと、10個も20個もショートケーキを買わないですよね。箱単位の商品のほうが持っていきやすいに決まっている。でも、渡す相手がわっと喜ぶようなショートケーキが箱にきれいに10数個入っていて、しかも持ち運びやすかったら、またショートケーキのニーズが膨らむはず。
僕はそういう考え方をするんです。売りたいのではなくて、自分の思考が世の中にマッチしているかどうかを、毎日ゲームのように考えている。例えばコンサート会場に行けば、なぜこの照明、曲順なんだろうと。ゼロからのものづくりが好きなんですね。
去年は新作のチョコレートを25種類。今年は65種類つくりました。そのうち35種類をニューヨークの国際コンクールで発表して32種類が表彰されました。自慢じゃないですよ(笑)。自分がいいと思った感覚が世の中でうけるかどうかの僕なりの遊びです。海外での評価は、お客様が一番喜んでくださいますね。