豪華なる第一流の刺繍をば衆に広めて嬉しがらせる
幼い頃、家の応接間に掛かっていた額。実際の筆で書くよりも糸で縫い上げる方が達筆だと称された刺繍職人であり、創業者の祖父が施した言葉のオブジェを毎日何気なく目にしていた合田少年。創業精神と家業の軸足であり強みでもある「刺繍」の存在は自然に刷り込まれていった。
「父が祖父の背中を見て育ったように、僕は父の働く姿を見て刺繍屋になった。迷いはなかったですね。与えられたところで一生懸命やっていく、その方がかっこいいじゃないですか(笑)」。
終戦直後、日本に進駐していた米兵たちの襟章を受注し事業のベースを築いた祖父。約30年前、業界に先駆けて中国に生産拠点をつくった父。
そして三代目の合田氏は、中国各地の拠点に加え、バングラデシュにも進出。刺繍加工のみならず、刺繍技術をベースにしたワッペンの製品開発など、各地の市場ニーズに合わせて事業を展開。日本のアパレル不況が叫ばれて長いが、ジャパンクオリティと長年の歴史が同社の信用を後押ししている。
もちろん日々の経営判断には迷いや葛藤もある。でもそんな合田社長が経営のバイブルとしているのは、21年前にとりまとめた創業者の伝記だ。
「迷ったり、壁を感じたりするたびに読み返します」。
数日前に催された両親の金婚式のパーティで、大勢の来賓客の前で乾杯の音頭をとったのは大学3年生の長男。「サプライズで指名したのですが、シャキッとしてこなしていました(笑)」。
夢あるファミリービジネスのDNAは創業者の言葉通り、一針一針、時代を紡いでいく。
▲ゴーダグループ 代表 合田 陽一氏
(文・写真/山蔭ヒラク)