故人が好きだった香りを仏壇に
1883(明治16)年創業の老舗線香メーカーだが、「それでも当時としては後発会社。他社と違いを出すために当初から使いよい、香りよい商品づくりにこだわってきた」と増田氏。
それまでスタンダードだった長寸サイズを半分の短寸(約13センチ)にした「仙年香」は発売から110年が経過した今なお主力商品だ。また、香りにとことんこだわったお線香「松竹梅」は、発売から85年経過した現在でも、関西を中心に根強い人気を誇っている。
最近も香りひかえめ(微香)タイプ、燃焼時間を短くした「ミニ寸」(約9センチ)などを業界に先駆けて開発。原料の配合に工夫を加え2009年に発売した「灰が少なく散らばりにくい」線香も好評を博している。
居住、家族形態の変化により家に仏壇が置かれなくなり、需要が減少しつつある線香市場。「より裾野を広げるとともに、大切な人のためにお供えするという気持ちにも応えたい」との思いから商品化したのが「香りの記憶」シリーズだ。
「故人が好きだった飲み物、食べ物の香りを込めることで思い出を共有できるように」とのコンセプトでまず「珈琲(コーヒー)」を2013年に発売。「香料の匂いは熱が加わると変化するので調合が難しい。コーヒーといっても嗜好に多様性があるのでどのような匂いにするかも悩み、100種類くらい試作品を作った」と振り返る。
商品に込めた思いが共感を生み、売上げは順調に伸びている。今年2月には「蜜柑(みかん)」も発売した。「パッケージだけではコンセプトがなかなか理解されにくい」ことが難点で、繁忙期には線香売場に担当者を配置している。現在は「珈琲」「蜜柑」に継ぐ第3弾の開発を検討中だ。
▲今まで線香に親しみがなかった人からの反響が大きかった「香りの記憶」シリーズ。
▲「品質が生命」の社是のもと、一つひとつ人の手で丁寧に検品している。
▲経営企画室長 増田 幹弥氏
(文・写真/山口裕史)