建築の安心を築く 株式会社測建の革新的杭打ち工法
建築工事の最初に地下深くに穴を掘って、コンクリートや鋼製の杭を埋め込む杭打ち工事。建物の大きさにもよるが、大型の構造物では地中深く60mまで打ち込むこともある。杭の上に基礎と呼ばれる土台が築かれ、その上に構造物が乗ることによって、地震が起きても倒れにくく、耐久性がある建物づくりが可能になる。株式会社測建はさまざまな機器を使って、杭や構造物の骨組みなどが水平、垂直方向に誤差なく施工されているかどうかを土木・建築現場で見える化し、建物の安全を守っている。なかでも、既製コンクリート杭施工の精度管理システム「PM(パイリング・メジャーメント)工法」は、杭打ちの精度をチェックするという、それまで業界に根付いていなかった慣習を定着させる役割を果たした。
きっかけは、杭打ち工事業者が杭打ちの精度について斎藤氏にふと話した不安の言葉だった。聞けば、杭打ちの位置が図面と異なっていた場合、打ち直しをしなければならず、そのコストは毎年売上げの1%に達しているという。そこで斎藤氏の考えがビジネスの頭に切り替わった。「ずれを防ぐシステムを開発したら、手直し工事や工期の遅延がなくなるはず」。担当者から与えられた宿題を一つずつ解決しながら10年ほど前、システムの開発にこぎつけた。
とはいえ、販売のハードルは想像以上に高かった。「PM工法」は、杭打ちのずれを前提にした商品だけに、営業をかけるたびに「うちのやっていることに文句をつけるつもりか」とすごまれた。きつい言葉を浴びせられて戻ってくる営業担当から「部署異動させてください」と何度も泣きつかれた。
だが、横浜のマンションで杭打ちデータの改ざん問題が表ざたになったことで、業界の空気が変わっていく。たまたま付き合いのある業者からの紹介で大手ゼネコンのトップの前でプレゼンする機会を得た。「いい技術じゃないですか」。トップのひと声で採用が決まった。6、7年がかりで事業がようやく軌道に乗った。
建築業界で今、杭と構造物の間の基礎が不要になる次世代工法に注目が集まっている。その前提となるのが高精度の杭打ちだ。「またとないビジネスチャンス」ととらえ、同社は攻めの営業に転じ、施工事業者と連携し、スーパーやドラッグストアなどの施主に提案営業をかけている。併せて、工事量の増加を見越して、人手がかからない自動測定器の開発も進めている。創り上げた市場で独走するため挑戦は続く。
(取材・文/山口裕史)