産経関西/産創館広場

紙のコーディネイター、新たな挑戦

2014.11.03

工場や卸問屋の多い東大阪市に事務所を構える「株式会社 庫内(クラウチ)」。紙の卸業として創業82年の歴史を持つ。

デジタル化や流通構造の変化に伴い、取り扱い商材である「紙」も、事業形態である「卸」も共に厳しい環境にある中、今年5月、創業者の孫にあたる林美和子氏が専務として就任。収益向上に向けた事業改革を実行中だ。

就任後すぐ、社員全員と面談した。その中で多く聞かれたのは、給与への要望だった。これまで賃金カットをしたことはなく、業界相場を見ても、決して安いわけではない。会社の置かれている厳しさを、社員と共有できていない現状を痛感した。

「給与は重要。しかし給与を生み出す源泉(儲け)を、全員が一丸となって創り出す風土がなければ、会社の未来はない」。危機感を募らせた美和子氏は、社員と共通目的を持つために経営理念を策定し、新しい事業を生み出すことが必要と考えた。

現場との結束を強化するため、社員からたたき上げで役員になった、取締役部長の石田氏にも加わってもらった。「そもそも『紙』って何だろう?」「卸業がこんなに減っているのはなぜ?」「庫内はこれからどんな会社になりたいのか」など、あらゆる角度でディスカッションした。

議論を重ねる中で、営業チームが長く温めてきた「少年野球チームの卒団アルバムを作りたい」という思いを知る。プライベートで少年野球チームの監督をしている石田氏の存在が大きかった。社員の「やりたい」という気持ちに応えるべく、事業化に向けて検討を始めた。大切なのは、「子供たちの笑顔が伝わり、その家族も笑顔になれるようなアルバム」であること。そのために自分たちに何ができるのか、アイデアを出しあった。

従来の卸業とは違い、小ロットの受注となるため、現場のきめ細かな対応や準備が必須となる。ビジネスモデルの転換を余儀なくされるが、「家族を大切にする」という世の中のニーズに応えつつ、庫内の理念に沿ったドメイン拡大である。

本格的な事業の始動に向けて、現在全社員で準備を進めている。さらに来期には、一般消費者向けのネット通販もスタートする。生き残りをかけた新たな挑戦は始まったばかりだ。

(大阪産業創造館 プランナー 池田奈帆美)

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▲右から専務の林美和子氏、社長の林弘之氏、取締役部長の石田信一氏

株式会社庫内

http://www.kurauchi.co.jp