産創館トピックス/講演録

日本一幸せな会社のつくり方 ~未来工業の非常識?経営~

2012.12.14

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営業ノルマ禁止。残業禁止。上司への「ホウレンソウ(報告、連絡、相談)」禁止。上司が部下に命令すれば、その上司は降格。社員の平均年収600万、65歳の平社員の平均年収700万、しかも定年は70歳。社員旅行でクイズ50問に正解したら半年間の有給休暇など。“非常識”といわれながらも「創業以来、赤字なし」という実績を生み出している未来工業の経営手法。創業者・山田昭男氏のシンプルでゆるぎない経営哲学に迫る。(2012/12/14講演録)

「いいものを安く」じゃ儲からない

うちの会社は「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」をやっていない会社で有名なんだけど、みなさん「なんでつぶれないんだろう」って心配してくれます。でも「ホウレンソウ」をやめたらつぶれたって経験、どなたかありますか。経験してから言え、と言いたい。

今日お集まりの皆さんは、大体商売人ばかりだと思う。社員だろうと社長だろうと会社にある限りは商売人。じゃあ、商売ってなんですかというと、これは100%金儲けです。今、個人、法人合わせて日本には約675万の会社があるけれど、金儲けしたくないからって作った人は一人もいません。そのくせ、大阪も含めて日本中の会社は「いいものを安く」って言うんです。それでどうやってお金を儲けるの。結果は「過当競争」が待っているだけ。それじゃ儲かるわけがない。日本の会社は実に儲かってないんです。

国は、6年前まで50年間ずっと高額所得法人を発表していましたが、高額と言っても経常利益4000万円です。低いですね。その4000万円儲かっている会社が、調査したうちのどれくらいの比率あったかというと3%しかない。そのほとんどが大企業なのですが、当然分母が大きいから経常利益率にすると3%とか2%ばっかり。せめて10%は儲けなきゃいけない。作る品物は世界で1番いいのに、頭が悪いから金儲けできないんです。

じゃあ何のために金儲けするのかといえば、一つは縁があって来てくれた社員たちに高い給料を払って、豊かな生活をしてもらいたいということ。人生の中で会社にいる時間が一番長いんだから、会社で働く時間が楽しいよ、嬉しいよという人生を送ってもらいたい。二つ目は、税金を払って社会貢献すること。

どうすれば金が儲かるかというと、たった一言でいえば、儲からない会社の反対のことをすればいい。単純明快でしょ。

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儲からない会社の反対をやれば儲かる

儲からない会社の反対をやることをうちの会社では「差別化」といいます。差別化すれば会社は儲かるだろうと考えて、この会社は出発しました。

どんな差別化をしてきたのか。それがさっき言った「ホウレンソウ」の話。今日本には役人が600万人いる。38万人の社員を持つ大企業がある。これを束ねるには「ホウレンソウ」が必要だというわけ。でも、うちの会社は社員の数が少ないのに、なんでその真似をしなきゃいけないのでしょうか。これは絶対間違えてます。うちの会社は「ホウレンソウ」禁止。下は上に物を言ったらいけないし、課長、部長は部下への命令は一切禁止。言いたかったら説得をして納得させろということです。説得できない上司や幹部は全部クビ。といっても日本ではレイオフできないので、課長から平社員に降格します。だから必ず上は下に説得をしろということ。

日本は世界で1番の高学歴社会です。高校を出たらだれに言われなくても自分で考えられるはず。自分で考えて自分でやって成果が出ればすごくうれしいんです。うれしかったらまた頑張るんだからさ。上が言うと指示待ちになります。だから日本の会社では物事が前に進まないんです。

うちの会社には年間1万人の見学者が来ます。1人2000円いただいていて、それで何も出さないのは申し訳ないから、何かお土産を渡そうと思って、社員が「未来せんべい」と言うのを考えました。岐阜県大垣市の名物の味噌煮せんべいでね。うちは電気屋ですが、そのアイデアを採用しました。年間1万個分売れるんだから。せんべい屋も社員も喜んでいる。ホウレンソウなんかすると、こんなことも通らなくなってしまいます。

次に何をやったかというと「成果給料」の禁止。うちは、めちゃくちゃ頑張ったと言っても給料やらない。その代わりどれだけさぼっても給料やるよという年功序列です。それから「ノルマ」はないし、携帯電話は禁止。周りの会社は、儲かっていないのに、みんな会社で携帯を社員に配っているけど、それは会社にとって害だと思います。うちは、個人でどんどん買え、その電話でどんどん会社に電話しろ、と。「残業」も禁止。その他にも禁止事項はたくさんあります。

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えさをやらなきゃ社員が頑張ってくれるはずがない

会社というのは金儲けだよと言いましたが、金儲けは誰がやるのか。これは間違っても社長じゃなくて社員です。社員たちがこの会社で頑張ろうと思ってくれなければ儲かりません。じゃあどうやったら社員が頑張ろうと思ってくれるか。それは簡単明瞭なことで、えさをあげればいいんです。どんなえさをやればいいのかはケースバイケースでね。それはそれぞれの会社が独自のやり方でやればいい。

挙げるとするなら1番最初は給料。皆さんの会社の社員が、自分の友達たちと比べて、誰よりも安い給料だったらそんな会社は辞めたほうがいい。そんな会社は絶対解散した方がいい。社員が働くわけないんだから。理想は誰に聞いても「高いなぁ」という給料だけど、せめて誰に聞いても「まぁまぁだな」と思われるくらいは払わないと、社員は絶対働きません。

何百人と社長を知っているけれど、みんな会社の金で自分の車を買っているんです。税法上OKだから会社の金で買うんですね。安月給の社員は自分の金で車買っているのに、1番高い給料の社長が会社の金で車買っている。買うならせいぜい100万円ぐらいの軽にしておけばいいのに、生意気にもみんな3ナンバーです。会社の金で車買って、ガソリン入れて、車検受けて。そういう社長を見て社員が働きますか。だから、社長が自分の金で車を買うこともえさの一つなんです。

そもそも会社を経営するのに乗用車は絶対いらない。だからうちの会社には1台も乗用車がない。みんな自分で買っています。そうすることがえさになって、社員たちも頑張ろうという気になってくれるだろうと思っています。

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「定年70歳」「育児休業は3年」

それからうちでやったのが「定年70歳」。国は、年金財政が苦しくなって年金の支払い開始が65歳からに延びるから定年も60歳から65歳に引き上げなさいと決めた。でもそう簡単にできないだろうから、定年を60歳にするならば、65歳までの5年間は給料半分でもいいから再雇用しなさいと法律で決まったけど、罰則がないからほとんど守られていませんでした。でも2013年4月からは罰則適用になっていよいよ皆さんの会社も定年を65歳にしなければいけなくなります。でもほとんどは給料を半分にするでしょうね。

それでうちは「70歳定年」にした。しかも60歳を過ぎても給料は一銭も下げない。うちは60歳の平社員で700万円、年功序列だからそれがピークだけど、70歳までそれが変わらない。これも差別化。他が下げるだろうからうちは下げないと。大体下げて社員が働きますか。頑張ってもらうためには高い給料を払わないと。あと、育児休業は2年といううわさがあったから3年にしました。

製造業の現場ではみんな作業服を着ているんです。そんな法律はないのに。しかもカーキ、青色、グレーってのが定番になっている。そんな服で社員たちが喜びますか。社員たちが「ださい」って言う服をなんで着せるのかって。赤でも黄色でもいい。そうやって会社は社員たちを「働かないように働かないように」しているんです。

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非正規採用を増やして失ったもの

うちは800人の社員がすべて正社員。パート・派遣は1人もいません。日本の企業では40%が非正規社員だと言うけれど、仲間を見ていると中小企業では60~70%がパート。バブルがはじけて以降の平成不況でみな業績が悪いもんだからパートや派遣を使いだした。仲間は「パートを使うことによってコストが下げられる」と言う。パートっていうのは正社員と比べて給料は半分で、ボーナスは10%、退職金ゼロ。しかもクビにできる。日本の正社員のサラリーマンの平均月収が30万円とすると、パートは15万円。それで社長連中は「コストが15万円下がったって」言うんです。それだったら、高額法人所得で儲かる会社が3%から4%に増えてもいいはずだけど、そんな話は聞きません。パートにしたら15万円かっぱらわれているわけです。あの社員は30万円、俺は15万円。でも仕事は同じ、それじゃ働くわけがない。結局コストは下がらない。正社員で30万もらえるんだったらその分頑張って働くでしょう。経営者はそういう発想ができないんですね。

人材派遣、人材教育、人材確保とか人材雇用とかいろいろ日本語あるけど、人材の「材」が全部「木へん」です。これも気に入らない。人間は材料じゃありません。「木へん」ではなく、どうせ社内で書くなら、財産の「財」で書いたほうがいい。これもえさなんです。字一つ考えてもえさがあるんです。

日本は戦争に負けたけど、戦後23年経った1968年に戦勝国をごぼう抜きにして世界第2位のGDP(国内総生産)になりました。どうしてなれたか。いいものを作って、世界中に売ったからです。その時にパートや派遣はほとんどいませんでした。しかも年功序列でノルマもなければ、成果主義もなかった。それで2番になれたんです。ところがバブルがはじけた1991年から非正規がいっぱい出てきました。ノルマができて成果主義が導入された。それでどうなったか。

今、車や電気製品を作っている会社で、リコールをやっていない会社がありますか。要はすごい数で不良品を出しているんです。こんなに不良品が出るようになったのも非正規が増えたからじゃないでしょうか。非正規の人間はクビになるから技術を覚えません。それでまともな商品ができるわけがありません。それで「いいもの安く」ってばかなこと言っているうちに、よそのほうがよっぽどいいものを作るようになってしまいました。

本当に景気は悪いのか

2008年の秋にいわゆるリーマン・ショックがありました。アメリカではGMがその影響で倒産したので、そこに部品を納めていた会社は確かにショックを受けたでしょう。でも日本の企業で本当にリーマン・ショックの影響を受けた会社に納品していて業績が悪くなった会社がどこにありますか。でも誰にやられたって探すわけにいかないから、みんなリーマン・ショックって言葉を逃げ道に使っているんです。日本人はもっと主体性を持った方がいい。

日本の人口は減り続けています。人口が減るとどうなるかと言うと、衣食住がいらなくなります。それで景気が悪くなる。リーマン・ショックを持ち出すまでもなく人口が減っているからこれからもっと厳しくなるでしょう。今までは経済も成長していたから横並びでもよかったけれど、これからは差別化しなかったら生き残れません。

今の日本のGDPは中国に抜かれて3位になりましたが、それでも485兆円あります。皆さんの中に485兆円じゃ足りねぇよって会社ありますか。ないでしょう。うちの業界でナンバーワンの会社の売り上げは1兆円を超えていますが、1兆円という需要があるから、それをかっぱらえばいいんです。それをかっぱらえないってことは、うちの会社の能力がないということ。なんぼでも需要はあるんです。需要が少なくて供給が多ければ景気が悪いってことになるけど、需要はあるんだから景気はいいんです。

じゃあそれをどうやったら取れるだろうか。今日みたいなセミナーに出て来て勉強することも必要ですね。

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お客さんを「感動」させれば商売になる

どうすれば商売が儲かるか。商売で一番大事なことはお客さんに喜ばれること。それをひとことで言うと「感動」ですね。ニーズとか満足とかを一緒にして、お客さんを感動させれば商売になるんです。ところが日本の会社は売れなかったらすぐに値を下げてしまう。もっと売ろうって。そうすると利益が減る。利益が減ったってことは、コストが上がったことと一緒ですから。

皆さんプロだから、儲けている会社がどうしてお客さんに喜ばれるかわかるでしょ。それを真似すればいいんです。

昔演劇をやっていたのですが、お芝居の言葉でアンサンブルって言葉があります。会社の言葉で言うとチームワークって言葉になるのかな。良いお芝居っていうのは、役者の演技から照明、音楽、衣装まですべてがよかったときにそう言えるもの。それがアンサンブルです。照明がいい、音楽がいいとか言われたら失敗でこっちの負け。商売も一緒で、製造も販売もよくないとだめなんです。

今当社のメイン商品は皆さんの会社にもある電気のスイッチの中にある「スイッチボックス」といわれているものなんですが、このシェアが80%あります。残りの20%のメーカーさんがすべて半値にしたんです。売りたいからって。それでうちは売上げが減ったかというと、減っていません。だから、うちだけ利益が出てるってことです。みんなが下げたからうちも下げようというのは一般論。お客さんに喜んでもらえるもの作っておけばよそより高くても買ってもらえるんです。経常利益率で10%を出すことが、まず僕は必要だと思っています。

中小企業の製造業の中の80%は下請けで、そこから脱皮しようとか脱却しようとか言うけれども、自分の商品を作ればいいわけ。うちは1965年に4人で始まった会社で、最初に、3人の社員に向かって、うちは絶対に下請けの仕事はやらないって宣言をしました。値切られたら儲かるわけない。だから、お客さんにダイレクトに伝わる自社商品を作るのが一番なんです。

社員の権利をかっぱらわない

うちは12月20日から1月10日頃まで約20日間休みます。だいたい日本の住宅屋は年末が忙しい。みんな年内に家を建てて、新年から新しい家に入りたいなと思うから。新しい家が建ったら、うちが作っている電気製品を取り付ける必要があるんですが、うちがシャッター下ろしちゃうから正月に入れないわけ。みんな怒るんだけど25年間ずっと休み続けています。いかにお客さんを怒らせるかがテーマだから。うちの会社が必要とされている証拠ですよ。

うちの会社がある岐阜には温泉が多いのですが、温泉は年末年始めちゃくちゃ忙しい。そうすると20日間も休みがあって暇なうちの社員は温泉にアルバイトに行くわけ。うちは会社が休みでも給料を払うから、アルバイトをすればダブルで金が入ってきます。これめちゃくちゃおいしいですよ。日本の会社は、だいたいアルバイト禁止なんですが、これは間違っています。勤務時間中にアルバイトしたらいけないけど、休みに何しようが社員に権利があるわけですから。会社っていうのはそういう権利までかっぱらってるんですね。それで誰が働くかって。

有給休暇だって社員の権利なんですが、「取ってもいいですか」ってお伺いを立てないといけないのが現実でしょう。それで返ってくる答えが、「あのな、今は忙しいんだから今回は出てこいや。次回はちゃんとやるから」とか言って、結局取らさない。「有給取りますよ」と言われたら、会社は「あ、そうか」で終わらなきゃいけないんです。みんな一生懸命社員の足を引っ張っている。社員の足引っ張ったら働くわけないよ、って僕は思うんです。

えさをたくさんやればやるほど、オンリーワンっていうのは生きてきます。社員が頑張らないとオンリーワンになれるわけはないんだから。うちは創業以来1回も売り上げ目標、利益目標を立てたことはありません。これは社員が頑張ってたらそれでいいんだから。社員を頑張らせる方がいい。「常に考える」というスローガンはあるけれども、いくら売ろうなんて数字は会社のどこにも掲げていません。

どんな人材を採用すればいいのか、どのように人材を育成すればいいのかと聞かれますが、営業は売ること、製造は作ることを教えればいいんです。どんな社員を入れようか、どんな社員教育をしようかって考える方が損です。そんなこと考える暇があったら、どんなえさをやろうかなということを考える方が得だと思います。

つまり、社長の仕事ってのは、どうすれば社員が喜んでくれるかな。頑張ってくれるかな。と考えることだと僕は思っています。

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未来工業株式会社

取締役相談役

山田 昭男氏

http://www.mirai.co.jp/

1931年、上海生まれ。旧制大垣中学卒業後、家業の山田電線製造所に入社。家業の傍ら、演劇に熱中し、劇団「未来座」を主宰。
1965年、劇団仲間と未来工業を設立。代表取締役社長に就任。1991年11月、名古屋証券取引所第2部に上場。2000年8月、取締役相談役に就任。現在の社員約800人、売上高200億円超。創業以来赤字なし。
1989年、黄綬褒章受章。2011年、会社は第1回「日本で一番大切にしたい会社」大賞受賞。新著に『日本一社員がしあわせな会社のヘンな“きまり”』(ぱる出版)。

(2012年12月14日 大阪産業創造館開催「サンソウカン社長トークライブ」講演にて)