昭和のプロダクト感を残すアルミ素材の「一人用鍋」

「あ、これ使ってた。懐かしい!」と言う商品がある。ダイヤ印(じるし)の「ダイヤ寄せ鍋」だ。昭和時代を思い起こさせる佇まいだが、2012年にグッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞した、今なお現役の商品である。

誕生は今を遡ること69年前。協栄金属工業株式会社の創業者によって開発された。「初代はおしゃれな人でね。百貨店などに足を運んでは、製品のイメージを膨らませるような人だったそうです」と話すのは、同社3代目に就任予定の寺脇氏。当時、土鍋と鉄鍋が主流だった時代に、「キッチン用品をもっと軽くできないか」とアルミに着目した創業者の動機を語る。

寺脇 壮史氏
アルミ鍋は軽量なだけでなく、熱伝導率が高く、耐久性にも優れている。高度経済成長期にあたる昭和30年代の生活ニーズに適した素材だった。さらに、開発の翌年には、ある有名な即席ラーメンが世の中に登場する。同社の鍋はその調理器具としてぴたりとはまり、一気に知られるようになり、注文が急増した。「そのときは、生産が追いつかないくらいだったと聞いています」と寺脇氏は話す。

創業者がこだわったのは、カタチと機能、そして丁度良いサイズ感だ。同社の製品には、どこかホッとするようなかわいらしさがある。全体的にやわらかな曲線を描き、丸みを帯びたデザインが特徴だ。もちろん使い勝手もいい。実際、この鍋を30年以上使い続けている家庭も多いという。「見た目の良さと実用性。その両方を備えているのは、創業者があちこちを回り、さまざまなものを吸収していたからこそだと思います」。

このように息の長い商品ではあるが、長い年月のなかで市場から姿を消しかけた時期もあった。アルミという素材が敬遠されるようになり、生産数が一気に落ち込んだのだ。多くの同業他社が廃業への道をたどり、同社の製品も「どこで売られているのかわからない」と言われるほど、販路が縮小した。

現在、寺脇氏はブランドの再興に力を注いでいる。「埋もれている『ダイヤ印』を掘り起こし、もう一度スポットライトを当てたいんです」。その取り組みの一つが、新商品の開発とともに、既存の製品にあらたな価値を添えて多様な使い方を再提案すること。たとえば、一人用寄せ鍋は“かき氷の器”としてSNSで話題を呼び、昔懐かしい学生コップは、プリン型や小物入れとして再評価されている。固定観念にとらわれず、柔軟に用途を広げていくこと。それこそが、3代目が描く「ダイヤ印」の未来だ。

(取材・文/荒木さと子 写真/福永浩二)
※掲載写真は、編集部にて撮影したもの以外に、取材先企業からご提供いただいた写真も含まれています。
《 開 発 秘 話 》
職人の手仕事感が生む味わい深さ
ダイヤ印の一人用寄せ鍋は、製造工程が20以上に及び、一般製品に比べて格段に多くなっています。それは細部にまで創業者の思いを込めているからです。職人が金型や機械を駆使しながら各工程を仕上げていくのですが、開発当初の昭和30年代は今のようなCADなどのコンピューターがない時代。職人の手が記憶する感覚が仕上がりを決めるため、量産品といってもひとつひとつに微細な違いが生まれ、それが味わい深い質感につながっていきました。









