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「会社を継いでほしいと父から頼まれたことは、いまだに一度もないんです」。自ら跡取り娘≠ニ称して、家庭用収納用品メーカーである家業の経営に奮闘する香予子氏は言う。「自分の人生、自分の好きな道を歩め」。そんな教育方針で育ち、大学卒業後は大手新聞社に就職。「家が商売をしている反動から、お金ではない価値の仕事をしたい」と思い、「正義」を軸に新聞記者の道を選んだ。夢はかなったが、ハードワークで挫折を経験。辞めるかどうか迷っていたところ、体調を崩した父親から「会社を手伝ってほしい」と声をかけられた。「この先会社をどうするにしても、身内が社内にいるのといないのとでは外からの見え方や事業の方向性が変わりますから」。父親で二代目社長の康雄氏は当時を振り返るものの、後継者のつもりで呼びかけたわけではなかった。「中小企業の経営は大変なんです。リスクを理解した上で、経営者になる覚悟を決めてもらわないと」。そんな父の思いとは裏腹に、「全面的にプラスに受け取り、いきなり会社を継ぐといって周囲を驚かしました(笑)」。しかし、いざ入社すると、静まり返った社内の空気に戸惑う。父親のトップダウン経営による社員の受け身の姿勢が気になった。「うちは企画力が勝負のビジネス。ボトムアップでアイデアを吸い上げるため、2週間に一度、開発会議を開くことにしたんです」(香予子氏)。社員の反発を覚悟したが、娘の方針を理解した現社長はこう通達する。「会社の方針が変わった。これからは頭を切り替え、自分で考え仕事をしてほしい」。現在は世代交代の真っ最中。香予子氏が三代目として実質的な経営の舵取りを行いながら、康雄氏がバックアップしている。親子二人三脚、事業承継の道のりは続く。(P6に続く)新聞記者から跡取り娘への転身、先代が見守る後継者への道[平安伸銅工業株式会社]代表取締役笹井康雄氏(左)専務取締役笹井香予子氏(右)http://www.heianshindo.co.jp/経営者の最大の使命は存続なり1562014.01