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め、生産効率が大きく向上した。玉手氏はここで、「金属向けの非粘着性用途に特化して商品化する」ことを決断する。平成23年度には経済産業省から戦略的基盤技術高度化支援事業に採択され、刃物表面の状態を検証し、非粘着性の理論的な裏付けをするための各種検査機器を購入。また、取引の無い地元の銀行から研究開発の助成金を受け、スプレーする機械を独自に内製化し、需要増に備える。刃物以外にも、大手樹脂成形メーカーから、金型に流し込んだ樹脂を取りやすくするための材料として使う話も舞い込んでいる。開発着手から20余年、ようやく技術が日の目を見つつある。同社が開発した「トフマク」とは、耐熱性、耐酸性、電気絶縁性などさまざまな特性を持つシリカ(二酸化ケイ素)の薄膜で、金属やガラスなどの表面に塗布することで機能を発揮する。何よりシリコーンとのハイブリッド膜で非粘着性が長続きすることが特長だ。その特性を活かし、現在さまざまな用途への応用が進んでいるが、ここに至るまでは20年を越える長い道のりがあった。日東商事は紡績会社を得意先とする商社でありながら開発部門を持つ。かつては紡績機械の特許も数多く持っていたほどだ。「商社は顧客からさまざまなニーズが汲み上げられてくる、その強みを活かしあらゆる研究を手掛けてきた」と玉手氏。だが、時流に抗えず製造子会社2社の廃業を余儀なくされた。「ダボハゼのようになんでも食いついてしまうところが悪い癖」と自嘲気味に語る玉手氏。25年ほど前、紡績機械で使う繊維をほぐすために使われるノコギリ状の刃物の耐久性を向上させるいい方法はないかと相談を受けた。人工ダイヤモンドを刃物の表面につければいいと考え、これをくっつけるための接着剤として石油会社からシリカの溶液を仕入れた。ところが人工ダイヤモンドだけが剥げ落ちて接着剤の膜だけ残った。この膜が「トフマク」の原型になる。シリカの持つ特性は幅広いため、何から手掛けるべきか目移りした。当初着目したのは光触媒機能。24ケースもの水槽を購入し、水槽の汚れを取る研究を進めたが「見事失敗に終わった」。シリカ原液の欠点は空気に触れると酸素や熱と反応してすぐに劣化することだった。極力空気に触れずに塗布できるようにさまざまな方法を試し、たどり着いたのがスプレーで吹き付ける方法。これが後になって吉と出る。大手通信機器メーカーから、多層の高機能フィルムを切断する際、フィルムに使われている粘着剤がはみ出て刃物に付着し、商品となるフィルムに悪さをするという悩みを聞いた。シリコーンを塗る前に「トフマク」をスプレーすると効果は抜群だった。刃物の表面に「トフマク」が点在する形でくっつき、膜の表面積が減ることで非粘着性がさらに発揮できたのだ。刃物の切れ味を落とすことなく、効果の持続力も長いた刃先に付着した「トフマク」。点在することで非粘着の特性を長持ちさせている。「トフマク」を塗った刃物(左2本)と塗ってない刃物(右2本)の検証。皮膜させることによって、フィルムからはみ出てくる粘着剤を付着させることなくスムーズに切断できるようになった。効果を理論付けるため、刃物表面の状態を分析する計測装置をそろえた。夢だった自社製品金属向けの非粘着性用途に特化技術力研鑽の極意設立/1947年資本金/2,500万円従業員数/57名事業内容/工業用ゴムをはじめとする工業用品、オマールエビやキャビアなどの高級食材、繊維機械の部品などを扱う商社。開発部門を設け、自社製品の開発に力を入れている。日東商事株式会社取締役社長玉手康之氏http://www.nittoshoji.co.jp/頭を打ちながら前進04