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西成区内で5軒のホテルを営む。宿泊料は2段ベッドのドミトリーで1泊1500円から。安さを強みに稼働率はほぼ90%を超える。宿泊客のうち約4割を占めるのがアジア、欧米からやってくるバックパッカーたちだ。「インバウンドの観光客はまだまだ増える」と5代目の山田氏は近隣で新規物件情報を積極的に収集している。周辺はいわゆる日雇労働者が多く集まる地域。ホテルはもともと労働者たちを対象にした「寝るための最低限の設備だけが整った簡易宿泊所」だった。山田氏は大学卒業後、飲食業の会社に就職する。「うちの事業を継いだところで大変なのは目に見えていた。サラリーマンで給料をもらう生活とどちらが楽か天秤にかけて判断しようと思っていた」と振り返る。その後英語を習得しようとオーストラリアに滞在し、帰国するまでにバックパッカーとしてインドやタイを回るうちに新たな可能性に気付いた。「外国人のバックパッカーたちは、日本は宿泊費が高いから行けないと思い込んでいる。でも2千円程度で泊まれることを話すと驚いていた」。バックパッカーたちをターゲットにすればビジネスになる。継ぐ決意が固まった。バックパッカーを集客するには、自身の経験からトラベルサイトに登録することが効果的だと考えていた。サイトに書かれた口コミ情報が判断の大きな決め手になるため、宿泊者の満足度を高め、投稿してもらえるにはどうすればよいかを考えた。旅行者がネットで情報収集することをふまえインターネットLANを各部屋に導入。外国人は大浴場に抵抗を示すため個室シャワーも整備した。ひところと比べ日雇労働者の仕事は激減し簡易宿泊所はジリ貧状態だ。多くの同業者がかつての好景気の時代の発想から抜け出せずにいる間に1歩も2歩も先んじた。「仮に好景気になったとしても固定資産税も金利も上がる。景気の良し悪しにとらわれずやるべきことをやるだけ」とインバウンドの増加という大きなトレンドに目を向ける。山田氏がめざすのは世界のバックパッカーが集まるタイのカオサンロードのような街だ。「居心地が良すぎて訪れた人がそのまま住みついてしまう。西成をそんなバックパッカーのためのエリアにしたい。そのためにまずは僕らが結果を見せないと」。しなやかな発想で事業を、そして街を引っ張る。ホテル中央グループ株式会社関西代表取締役社長山田英範氏http://chuogroup.jp/設立/1958年従業員数/30名事業内容/西成区内に5軒のホテルを運営。コンビニエンスストア、百円ショップ、賃貸アパートの経営も行っている。04