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「過去を見て、先を見て、今を見る」 老舗メーカーだからできる挑戦を

2015.04.09

―粟おこしは土産物店で売るのに対し、ダイエットクッキーはネットで売っていったのですね。

5年前に楽天に出店しました。それまでうちに委託してPBで売っていた先がネットで面白いように売っていましたから、簡単に売れると思い込んでいました。ところが、始めて半年間は売り上げゼロが続きました。当初はどんな手を使ってでも売ろうと思っていたのですが、やはり、135年続いてきた信用を損なうようなことをしてはいけないと考え、正直な商売を心がけました。

うちの商品を扱ってくれるショップに対しては、必ず商品に「大阪名物粟おこしの神林堂」の社名と「創業135年」という文字を必ず入れてくれるようお願いしました。そして必ずうちで売っているのと同じ価格で売るように、すなわちうちで売っているのより値段を高くするような2重価格では絶対に売らないように、ということを徹底しました。

もうひとつ絶対にやらないと決めたのが「わけあり商品」です。われわれは135年続いてきたメーカーですから、メーカーとしての誇りがあります。なによりメーカーだからこそ、商品の質の割に安い値段で提供できることが強みです。だんだんとメディアなどで取り上げていただけるようになり、評判が立っていきました。

―売り方も新しくなった。これも社員からの抵抗があったのでは?

実はいまだにオペレーションは僕がやっているんです。レビューを書いてくれたら商品を2個サービスしますということを考えるのも僕です。どこにでかけていても必ずiPadを開いて、お客様からのメールが入っていれば必ずサンクスメールを返すようにしています。商品をいかに早く発送するかもポイントで、売れ方が変わってきます。もちろん、いつまでも自分がやっていてはだめで、これから引き継いでいこうと考えていますが。

―先代、先々代から引き継ぎ、大事にしていることは何ですか?

周りに対してうそつかない、ということですね。誠実で正直な商売をするということです。中でも祖父に口をすっぱくして言われたのは「仕入先を大事にしなさい」という言葉でした。はったりをかまして1円、2円を安くするために駆け引きするようなことはしません。それよりも仕入先の方々には「あなたがたのネットワークの中で仕入れた情報を持ってきてください」と常に言っています。

自分のところだけええとこ取りするような目先の利益を拾いにいくような商売をしていたら、関係は長く続かないでしょう。苦しい時は助け合う気持ちがあれば、万一うちが苦しくなったときでも、あそこやったら支払いを待ったろかということになりますから。

―長い間に培ってきたつながりも大事にしているのですね

私が試作をしてできた商品が売れてくると、自社では生産が間に合わなくなります。そういうときに頼りになるのが、鉄道会社に土産物を納入している取引先の会などのつながりです。代々つながっているところが多いので、あそこだったらやってくれるかなと気軽に声をかけることができますし、むこうもすぐに引き受けてくれます。これは大きな財産ですね。

一緒になってがんばって喜んでもらえる商品をつくっていれば、周りも一緒に伸びていく。おのずと売り上げも信用も大きくなっていきます。
長く続いてきた横の関係は、体育会系のクラブと一緒で、先輩にはことあるごとにおごってもらっています。こちらが払おうとしても「あんたの父ちゃんに世話になったから」と。今では私がお返しする番ですが。

―現在の商品開発のキーワードは?

世の中の流れを見て先々のことを考えると「女性」「お年寄り」「ペット」の3つがキーワードだと思っています。なぜペットか。おじいちゃん、おばあちゃん世代の方々は、孫が大きくなって手がかからなくなるとさみしい。でもお金はそこそこ余裕がありますから、さみしさを紛らわすためにペットを飼うようになるだろうと考えました。そこでペット向けのお菓子も製造しています。

―先々を見て経営判断をするという意識が染み付いているのですか?

山高ければ谷は深いということは常に意識しています。だからこそ目先を見るのではなく、長い目で商売を考えなあかんと思うのです。そのために社員には“幽体離脱”して物事を見るようにせえよと言っています。要は俯瞰して見るということです。

自分の会社の狭い範囲で考えるのではなく、地域で、大阪で、日本全体を見渡してなにをすればよいのか。そして、それに時間も掛け合わせるのです。過去を見て先を見て今どうすればよいかを考える。経営においていつも意識するようにしています。

キャプチャ
▲楽天市場に開設したネットショップ。「楽天グルメ大賞2014」も受賞した。

(取材・文/山口裕史)

株式会社神林堂

代表取締役

岸本 憲明氏

http://www.rakuten.ne.jp/gold/shinrindo/

事業内容/1880(明治13)年創業。粟おこし及び健康・ダイエット関連菓子の製造・販売。