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【長編】常識に抗い、下請けの街からブランドを発信

2014.09.09

>>> 仕事がゼロになる。どのような決断をされたのですか。

それまで培った技術を生かして靴メーカーに入社しようかと考えました。生活を安定させたかったですし。父は事業を続けたかったようですが、地獄を見るのはわかっていましたから、僕に一緒にやろうとは言えなかったようです。これで人生が決まるわけですから僕も1週間ほど悩みました。そして「おやじ、やろうか」と伝えました。すると親父が嬉しそうに言ったんです。「やってくれるのか」と。そして2人で会社を立ち上げ、下請けの町工場ではなくて、自社で製品をつくって展示会で販路を開拓していくことにしました。でも、問屋さんや小売店の営業さんとしゃべったこともないですし、物流もわからない。量販店という言葉の意味さえわかりませんでした。

いろんなデザインを考えて3980円の値段をつけていわゆる“高級もん”として展示会に出展するのですが、メーカーの人たちが見に来ていて、2カ月ほどするとそのメーカーから僕がデザインした商品とそっくりの靴が定番商品になって売られていました。展示会のブースでも組合から押し付けられた什器とテーブルとパイプいすを使うように言われたのですが、緑の芝生を敷いて、木のかわいらしい什器などを使って展示をしました。でもそういう新しいことをすると、「勝手なことをするな」と組合から注意されるんです。「何が悪いのか明確に話をしてもらっていいですか。業界を変えようと思ってやっているんですけど」と刃向かうのですが、父から制止されました。

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ケミカルの安い靴は大きな数の注文をとらないといけないですから、注文が3千、4千という単位になるのですが、その代わりめちゃ値段をたたかれます。頭を下げ続けないと仕事を取れない。それで親父が言うんです。「俺らがやっている仕事は地面に頭つくまでやって初めて注文もらえるんやな」と。製造業は粗利20%ないとやっていかれへんのに当時8%くらいでした。家族で何とかご飯食べるのがやっとで。

業界には向上心のない人ばかり集まって、流行を真似しては値段をたたかれる繰り返し。つまり、ヨーロッパの流行が半年遅れて日本にやってくるので、いち早くヨーロッパに行ってプラダならプラダの売れている靴の情報を仕入れてそれと同じような靴をつくって問屋さんに買ってもらうわけです。ところが中国の工場がそれと同じことをやりだして、もうこれはもう太刀打ちでけへんなと。もう靴業界は終わりやな、と思っていました。

この頃のことは今思い返してもつらくて。業界の同世代の人らは夕方5時になったらお酒飲みに行って楽しそうにしている。かたや僕は毎日夜中3時まで仕事していても儲からない。よほど才能ないんやな、と。僕は生野の町が大嫌いでね。志の低い職人、メーカーばかりで、みな努力もせえへんのに景気が悪いということばかり言う。それは自分が仕事せえへんからやないか、自分らでしっかりものづくりしてへんからやないか、と言うんやけど、誰にも相手にされない。25歳から30歳頃までぺこぺこしてばかりするうちに個性は消えてしまいました。

regetta012▲株式会社RegettaCanoe 代表取締役社長 高本 泰朗氏

>>> その状況からどう抜け出したのでしょうか。

あるとき気づいたんです。僕は文句ばかり言うてるけど、自分かてブランドを創造していないし、人生賭けていないし、と。それで日本で開かれているあらゆる業界の展示会をのぞいて回ったんです。玩具から介護用品まで。それで機能とデザインの引き出しをもう一度頭に入れて、自分ができる靴づくりって何やろなと考えたんです。そういえば昔からビルケンシュトックという、凸凹のあるインソールで足裏全体を支えるサンダルを作っているドイツのメーカーが好きやったことを思い出しました。それに、介護用品の展示会で見た義肢装具士がつくるつま先に力を入れるとかかとが持ち上がるように靴底をつくって組み合わせたらどうだろうと考えたんです。木を買ってきてノミとやすりを使って底型をつくるところから始めました。「靴底のデザインに命をかけてみよう」と。それで靴全体のデザインはスペインのカンペールのようなコロンとしたかわいいデザインを織り交ぜられへんかな、とイメージして。そうやってハイブリッドで生まれたのが「リゲッタ」のサンダルです。「リゲッタ」は2点で支える日本古来の下駄をよみがえらせるという意味を込めました。そういうストーリーをつけると注目されるでしょう。

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それをどこで売ろうかと考えたときに、もう業界の展示会には飽き飽きしていたので、東京の生活雑貨の見本市、ギフトショーに出展しようと考えました。出展料は200万円です。親父に頼み込んで、これであかんかったらこの業界辞めて別の会社で働く、という覚悟を伝えて、出してもらいました。

すごい反響で、名刺が200枚くらい集まりました。「日本製でこれだけ安くて(5980円)、靴メーカーが企画した機能性シューズということやったら通販でバカ当たりする。あなた自身面白いキャラクターだし」と多くのバイヤーに言ってもらうことができました。まともな展示会に出たら、胸張ってモノを売っている人たちと面白いものを発見したいと考えている人が真剣勝負でぶつかり合っている。唯一無二になったら、ちゃんと価値をわかってくれる人たちがいるんや、と。大きな自信になりました。

 

次ページ >>> 「僕は客を選ぶ、売りたくないところには売らない」という宣言。

株式会社 RegettaCanoe(リゲッタカヌー)

代表取締役社長

高本 泰朗(やすお)氏

http://regettacanoe.com/

シューズ・サンダルの卸と小売(国内・海外)。