スタッフ連載

Vol.24<最終回>ものづくりの事業所が最も多いが、零細規模の廃業が懸念される状況の「生野区」

2020.04.21

 
さて、「これが我が区のナンバーワン」シリーズもいよいよ最終を迎えました。残る一区は生野区です。皆さんは生野区に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか。

 
鶴橋のコリアタウンが有名ですので、韓国人などの外国人が多いという特徴を指摘する方もいらっしゃると思います。

大阪市市民局の集計によれば、生野区に住む外国人は28千人以上(2019年末)で、大阪市全体の2割を占めトップです。このため、人口に占める外国人比率も22.1%で、第2位の浪速区:13.9%よりも8%以上多くなっています。

 
外国人が多く居住するという特徴以外にも、工場(製造業事業所数)の多さでもトップを誇っています。本シリーズのVol.2やVol.13にて、西淀川区や平野区を分析した際にも紹介しています。

すなわち、2016年6月時点の事業所数(総務省「経済センサス-活動調査」)では、生野区:1,562、平野区:1,283、西淀川区:729、淀川区:635の順となっています。

そして、生野区の特徴は従業員規模で1~3人規模が53%と過半数を占めていることです(大阪市全体では43%)。ものづくり産業をとりまく環境は厳しい状況が続いており、特に零細企業では廃業を余儀なくされる状況が続いており、現在集計中の2019年の「経済センサス-基礎調査」では平野区にトップの座を譲る可能性もあります。

 
それを傍証する統計として、従業員4人以上の事業所数の推移を工業統計調査でみると、17年:598、18年:558となっており、16年:734(「経済センサス」統計が異なる点は要留意)と比較すると、18年は24%の減少率となっています。

ちなみに、平野区は16年:823、17年:650、18年:660と推移しており、20%の減少率にとどまっています。

 
次に、多くの事業所が集積している生野区にはどのような業種の工場が多いのでしょうか、また、それは大阪市においてどのような位置付けにあるのでしょうか。

 
統計指標として、事業所数、従業者数、製造品出荷額等、および粗付加価値額に関して、区内で上位に位置する業種を総合的に抽出すると、食料品製造業、印刷・同関連業、化学工業、プラスチック製品製造業、ゴム製品製造業、および金属製品製造業、の6業種となります。

これら6業種で上記4指標について、各々2/3~3/4を占めています。

 
そこで、4指標それぞれについて、6業種のそれぞれが生野区全体に占めるシェアを横軸にとり、縦軸には6業種それぞれについて、大阪市に占める生野区のシェアを縦軸にとって、4指標×6業種=24の座標をプロットした図1を示します。

 
これをみると、化学工業は例外として、その他の5業種に関しては、各業種の4指標が比較的近接したエリア内の位置にプロットされていることが確認できます。

例えば、ゴム製品製造業は生野区に占めるシェアでは5~7%とさほど多くはないものの、大阪市に占めるシェアでは30~40%を占めています。このことから、ゴム製品に関しては生野区が一大集積地であることが指摘できます。

 
ゴム製品ほどではないですが、プラスチック製品製造業に関しても、区内でのシェアはさほど高くはありませんが、大阪市に占めるシェアが14~19%と比較的高い値を誇っています。また、食料品製造業も大阪市に占めるシェアでは13~16%とかなり高いシェアを誇っています。

この理由には、冒頭に述べたように、多くの韓国人が居住しており、韓国総菜などの製造業を営んでいる事業所が多いことが影響しているものと推察されます。

 
金属製品製造業は、生野区に占めるシェアでは19~26%とかなり高いシェアを占めていますが、全市におけるシェアでは11~15%とさほど高くはない状況です。

ただし、西淀川区に次ぐ集積を誇り、平野区とほぼ同水準にあります。全市シェアがさほど高くはない理由は、本シリーズVol.17で分析したように、金属製品製造業が都心エリア以外の大半の区において最大の業種になっているためであり、市内広域に広がる分散型の集積状況となっているためと考えられます。

 
これら以外の2業種では大阪市に占めるシェアは8%以下に過ぎず、市全体の観点からは、特段の集積エリアとは言えない様子です。

 

図1 主要6業種に関する生野区全体に占める各4指標のシェア(横軸)と全市に占めるシェア(縦軸)

出所:経済産業省「工業統計調査 平成30年」

 
以上の分析から、生野区で特筆すべき業種は、ゴム製品、プラスチック製品、食料品、および金属製品の4業種であると言え、大阪市全体を俯瞰しても、重要な集積地であることが指摘できます。

 
(取材・文/大阪産業創造館 徳田裕平)

 

大阪産業創造館 徳田裕平
建設コンサルタント会社やシンクタンクを経て、縁あって旧・大阪都市経済調査会の事務局長に就任。
大阪市をどうやって元気にするかをテーマに日夜、調査・研究に励む。