ものづくり

《講演録》「よなよなエール流、差別化戦略!」赤字続きの創業期を乗り越え、熱狂的ファンを増やし続ける理由とは!?

2020.01.26

☞ 直接的な売上げではなくファンの圧倒的な支持を狙う

以前にシリコンバレーに勉強に行った際に、いま私が大切にしているマインドを学びました。それは「失敗しても良い」「うまく行くかどうかは誰にも分からない」「リスクも取ろう」ということ。

そして、「小さく生んで大きく育てる」ということも学びました。「水曜日のネコ」は当初それほど売れると思っていませんでしたので楽天市場だけで販売していたのですが、あっという間に評判が広がり多くの店頭にも並ぶようになりました。

また、プロモーションについても、大切にしていることがあります。それはファンイベントです。2010年に恵比寿で第1回「よなよなエールの宴(うたげ)」を開催したとき、40人ほどが集まってくれました。「おいしいビールを作ってくれてありがとう」「よなよなエールで幸せを感じた」といった言葉をかけてもらい、人生最良の日だと感じたことが今も忘れられません。

それから約10年経ち、今ではお台場に約5000人が集まる大型イベント「よなよなエールの超宴(ちょううたげ)」が開催できるまでになりました。

こうしたイベントは直接的には売上や利益につながりません。けれども、そうした取り組みが熱狂的なファンを生み出している、と考えています。売上げを取るか、お客さまの満足度を取るか。普通はどちらもある程度取りたいと考えるかもしれませんが、そこで「トレードオフ」なんです。私たちはこのイベントについては売上げを狙わない。その代わりに、ファンの皆さんの圧倒的な満足度を追求しています。

言い換えれば、私たちは「ビールを中心としたエンターテイメント」を広げたい。ビールを製造して販売する会社は世界中に何十万社もありますが、私たちの場合は、イベントをはじめ、パッケージやウェブサイトでも楽しんでもらいたい。そうしたあり方も他社との「差別化」の重要な要素になっていると思います。

突き抜けた個性は、賛否両論を生み出し、熱狂的ファンを生む。これがトレードオフを伴う「差別化」なんです。楽天の三木谷社長が出席するイベントや政府のパーティでも仮装していくのですが、これもファンに喜んでもらうことを追求しています。人はどうしても賛否の「否」を避けたがるものです。けれども、私たちの会社はそれを恐れません。賛否がない状態では新しいものは生み出せないと考えているからです。

売上げに直接繋がらないような取組みでも、お客さまの心に入っていくことが大切。売上げは後からついてくる。この考えを実践する道を進むには勇気が必要です。しかし、その「誰も歩まない道」こそが、差別化の一歩だと思います。

いま、私たちはビール業界での1%のシェアを狙っています。まずは私たちを知ってもらうために、世の中で他にない物、サービスを生み出していきたい。万人受けするものよりも、100人に1人が熱狂的に支持してくれるようなビールづくりをめざしていきたいと思っています。

 
(文/安藤智郎)

 
井手 直行氏(株式会社ヤッホーブルーイング 代表取締役社長)
1967年(昭和42年)福岡県出身。国立久留米高専電気工学科卒業。大手電気機器メーカーにエンジニアとして入社。広告代理店などを経て、97年ヤッホーブルーイングに創業メンバーとして参画。営業担当として、2004年以降楽天市場でのネット業務を推進。看板ビール『よなよなエール』を武器に業績をⅤ字回復させた。08年より現職。全国200社以上あるクラフトビールメーカーの中でシェアトップ。14年連続増収増益。

株式会社ヤッホーブルーイング

代表取締役社長

井手 直行氏

https://yohobrewing.com/

事業内容/クラフトビール製造および販売